他者への攻撃や報道阻止に使われる「SNSの著作権フィルター」。米警察が活動家のライブ配信を阻止した事例から考える

動画サイトだけではない、AV撮影時の音の禁忌、小説投稿サイトの歌詞の禁忌

 こうした、著作権による情報伝達の停止は、動画サイトだけのことではない。動画は動画でも、アダルトの分野でも、音楽による撮影停止のエピソードがある。『AV男優はじめました』の著者である蛙野エレファンテ氏によると、選挙カーの音声や、外部の音楽が入ってしまい、撮影を停止するエピソードが語られている(Twitter)。  動画でなくても、音楽関係は著作権が厳しい。歌詞などを本に載せる際には、非常に気を使うという話はよく聞く。小説投稿サイトでも、歌詞については特に気を使っている。小説投稿サイト最大手の「小説家になろう」でも、歌詞転載に関してというガイドラインページが用意されている。歌詞を掲載した際には、早ければその日のうちに警告が来て、そのページが見られなくなったりする。  また、著作権といえば、アメリカの DMCA(Digital Millennium Copyright Act:デジタルミレニアム著作権法)の問題がよく語られる。虚偽の著作権侵害申請により、コンテンツが非公開になるという問題が頻繁に発生している。  侵害が申請された場合、サービスを提供している側が、とりあえず非公開にすれば責任を問われない。そして申告された側が、著作権違反をしていないことを証明しなければならない。そのため、気に入らないコンテンツを消させたり、自社に不利な情報を隠したりするために、DMCA はよく利用される。  この DMCA といえば、2月の末に、このフィルターが発動した珍事件もあった。メタリカの Twitch ライブが DMCA のフィルターに掛かり、著作権フリー曲に差し替えられたというものだ。メタリカは、DMCA の普及を後押しした過去があるために、壮大なブーメランだとネットでは話題になった(ギズモード・ジャパン)。

著作権フィルターという「双刃の剣」

 著作権は、コンテンツの作り手を守るために必要な盾であると同時に、巨大なコンテンツ産業が利益を上げるための強力な武器として機能してきた。  インターネット時代以降、多くの人が気軽に低コストでコンテンツを配信できるようになった。そのため、膨大な数のコンテンツが世に溢れるようになった。その結果、コンテンツを配信する企業は、コンピューターの自動処理で違法コンテンツに対処するようになった。  こうした自動化されたシステムは、人によっては格好の攻撃対象になる。システムを悪用して何ができるか考える人は多い。そして、警察によるジャーナリズムの阻止や、反社会的組織による告発潰しに利用されている。  現在の著作権のシステムは、過去の社会に合わせて作られたものだ。社会や技術はアップデートされる。そして、作られたシステムは現状と合わなくなりトラブルを発生させる。著作権周りの状況は大きく変わった。時代に合わせて、適切な改良が必要になってきているのではないだろうか。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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