なぜIT系のユーザーサポートはうまくいかないのか? 聴く側が最低限伝えるべきこと

コールセンター

y.uemura / PIXTA(ピクスタ)

話題になったAWSの『技術的なお問い合わせに関するガイドライン』

 年度末、年度初めは、慣れない仕事をすることが多い。一年に一度の仕事をしたり、業務の引き継ぎで新しい仕事に触れたりする。そうした時、疑問に突き当たり、自分一人では解決できず、必要に迫られて他人に質問する。  そうした繁忙期の質問だけでなく、ITシスステムの不具合や、業務のトラブルなどで質問することは日々起きる。特に、新型コロナウイルス流行以降は、ネットワーク越しにやり取りすることが増えた。  そうした質問を、メールなどの文書にして送り、素早い回答を得るには一定のノウハウが要る。適切な情報を届けて、サポート担当者が回答しやすくする。そのためには、目の前にいない人間に、こちらが直面している状況を過不足なく伝える必要がある。  相手にとって必要な情報が不足していれば、確認のために無駄なやり取りが発生する。最初から全て揃っていれば、短時間でレスポンスがもらえる。  少し前に、AWS(Amazon Web Services)の技術的なお問い合わせに関するガイドラインが話題になった。Amazon のクラウドコンピューティングサービスの技術的な質問をする際の文書の書き方をまとめたものだ。  目次の大項目を見ると「解決したい課題を明確にする」「状況を正確に共有する」「経緯を共有する」という項目がある。上記のページには、悪い例文とよい例文まで載っている。日々、大量の問い合わせを受けていて、その対応に苦慮している様子が想像できる。  私自身、昔『めもりーくりーなー』というオンラインソフトを公開していて、大量のユーザーサポートメールを受け取っていた。そのため、ユーザーサポートの難しさは骨身に染みている。今回は、コロナ時代にも役立つであろう、こうした技術的な問い合わせについての話をする。

遠隔ユーザーサポートの難しさ

 質問者と回答者が同じ場所にいないとする。その状態で、技術的な疑問やトラブルについて質問して回答することは、なかなか難しい。なぜ難しいのかは、いくつかの要因がある。  一つ目は、人間にとって、離れた場所の人に、自分の状況を説明するのは、かなりイレギュラーな状況だということだ。人類が、離れた人とコミュニケーションできるようになったのは極めて最近である。そのため、多くの人にとって不慣れなことだ。  たとえば目の前にいる人に「困った」と言って、自分の状況を伝えるのは簡単だ。相手も同じ場所にいれば、その困った状況が見えているからだ。しかし、遠隔地にいる人に同じように話しかけても、何が困っているのか分からない。その状態が見えていないからだ。  メールで「困っているのですが、どうすればよいのでしょうか」とだけ書いてくる人は、非常に多い。メールを受け取った人は「何がどう困っているのでしょう」と聞き返すことになる。自分と他人が見えているものは違う。この切り分けが、想像以上に難しいのだ。  二つ目は「相手が必要な情報が何なのか分からない」という問題だ。たとえばソフトウェアのユーザーサポートだと、実行環境、バージョン、手順、結果、エラーメッセージ、再現性などが知りたい。  しかし、IT業界以外の人だと、こうした情報への解像度が低い。そのため「止まりました」というのが、その人が把握している情報の全てだったりする。OSについて質問しても「パソコンです」という答えが返ってきたりする。Webブラウザーについて質問すると「Yahoo!です」と返答があったりする。  こうした違いがあるために、質問を送る側は、ユーザーサポート担当者が欲しい情報について想像することはできない。この点で、質問者を責めることはできない。  三つ目は、適切な質問を組み立てる難しさだ。その業界にいない人は、その業界固有の専門用語を知らず、基礎知識も持っていない。そのため、問題だと思っていることを、他人と共有するのが困難なことが多い。  たとえば、普段パソコンを使っていない人が、意図せずCtrl+Sを押してしまい、ファイル保存ダイアログが出てきたとする。ダイアログの名称も分からず、ファイル名を付けて保存するという常識も知らなかったとする。  そのユーザーが「何かよく分からないものが表示された」と問い合わせをしたとする。サポートする側が、どんな問題が起きているのか瞬時に把握するのは困難だ。  三つほど難しさの要因を挙げたが、その解決方法は、業界によって違う。ソフトウェアのユーザーサポートや、プログラミング系のQ&Aについては、ある程度の共通認識が業界にある。遠隔での質疑応答の参考になる、その内容について書いていこう。
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ソフトウェアのサポートで解決を目指すために必要なのは……
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