NHK、「宗教2世」番組を放送。カルト2世問題を“宗教”に一般化する危うさ

“嫌な予感”が的中、2世問題の背景はスルー

 今回のハートネットTVの番組宣伝文はこういうものだった。 “「あなたは私の子じゃない。神様の子なのよ」。今、親が信仰する宗教の下で育った「宗教2世」と呼ばれる人たちが、SNSや漫画を通して声を上げ始めている。宗教こそが家族を幸せにし、教義を基軸とした教育こそが我が子のためになると信じる親によって、恋愛や進学、就労などさまざまな場面で自らの意志を奪われ続けてきたという。これまであまり語られることのなかった、“神様の子”として生きてきた人たちの声に耳を傾ける。”〈出典:ハートネット福祉情報総合サイト|ハートネットTV〉  筆者はこの番組予告を見て以下の懸念をツイートした。 “嫌な予感しかしない。カルト問題の枠組みの中で捉えるべき問題が単に宗教の問題だと誤解されかねない。“ 〈筆者のtwitter|鈴木エイト ジャーナリスト@cult_and_fraudより〉  予感は“的中”した。実際に放送された内容は当事者の“声に耳を傾け”たのみで、やはり「カルト」という言葉は一切使われず、2世問題の背景にある「組織と人権侵害の構図」は明示されなかった。前述のJSCPR公開講座のテーマにもある「その背景に何があるのか」を示さない限り、2世たちが辿ってきた過程は単なる「逆境に耐えて頑張った人たちの物語」になってしまう。  カルト団体の2世を巡る諸問題について、一般メディアが「宗教2世」との呼称を前面に立て取り上げた例はこれまでなかった。聞くところによると、今回の番組を企画したNHK名古屋放送局のディレクターも当初「カルト宗教の2世信者」をテーマに取材を始めたという。ところが、当事者への取材を経て「カルト2世」や「カルト宗教2世」は封印され「宗教2世」となった。  なぜ「カルト」の表記は使われなかったのか。可能性の一つとして考えられるのは、当事者に対する“配慮”だ。

当事者への配慮による功罪

 番組制作サイドが当事者への配慮、つまり2世からの要望によって「宗教2世」にしたとすると、思い当たるのは番組で紹介されたあるサイトの記述だ。昨年5月、統一教会2世の20代女性が“経験共有の場”として開設した自助サイト『宗教2世ホットライン』には、「カルト2世」との表現を使用しない理由がこう綴られている。
宗教2世ホットラインHP

宗教2世ホットラインHP 〈宗教2世ホットライン|ホーム

“○宗教2世とは 巷では「カルト2世」という表現がされることもありますが、本サイトでは彼らを指すものとしてそのような表現は使用しません。その理由を以下に記します。 ①現在も信仰生活を続ける2世達の信教の自由、そして尊厳を保持するため。 ②「カルト」とは否定的なイメージがつきまとう修飾語であり、2世の存在そのものに対して差別的ニュアンスを与えかねないため。 ③当問題は「カルト」と目される教団以外でも観察されるため。“〈出典:宗教2世ホットライン|宗教2世問題とは〉  この一連の記述には違和感を抱いた。  「カルト2世」との呼称は、2世信者の信教の自由を侵害するものではないからだ。また「否定的なイメージ」「差別的ニュアンス」との指摘は、全国の各大学で採られているカルト対策に統一教会系の原理研究会(CARP)が抗議した際の「カルトという言葉はヘイトスピーチ、差別用語である」旨の主張との近似性を感じる。当然ながら「カルト」は差別用語ではなく、現役2世信者の尊厳を損なうものでもない。  また、社会問題となった複数の農業コミューンを始め宗教系カルト以外にも「カルト2世問題」はあり、「宗教2世」では問題の対象が限定されてしまいかねない。2世問題は「組織性による人権侵害と不可避な子どもへの加虐性」との枠で捉える必要がある。但しこれは、そこまで広く宗教系カルトを脱会した当事者2世にカバーすることを求める筋合いのものではない。  『宗教2世ホットライン』については2世の自発的活動として高く評価している。但し、その“基本設定”には危うさも見られる。
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無視された「親が憎い」と言った2世の声
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