コロナ禍でピンチの学生街――相次ぐ閉店、地方の学園都市では更に深刻

地域経済を支えてきた「留学生」たちの存在

 そうした外国人観光客の受け入れを支えていたのが、市内に多く住む「留学生」たちの存在だ。  別府市内で暮らす留学生は約100ヶ国、約4000人(2019年時点)にも及ぶ。人口約12万人の同市においてこの「4000人」は人口の約3パーセントにも及び、そのインパクトは大きい。  そして、世界各国からの観光客が訪れる温泉街では、観光関連施設はもちろんのこと、居酒屋のフロアスタッフ、百貨店やショッピングセンターの案内・レジ係など、留学生たちがあらゆる業種で自らの語学力を活かしたアルバイトができることも特徴であった。さらに、近年は市内で起業する元留学生も少なくなく、なかには後継者が居ない老舗の旅館や飲食店の経営を引き継ぎ、世界各国の観光客をターゲットとした多国籍型の経営をおこなうことで再生させる例も複数みられるようになっていた。  しかし、コロナ禍により来日予定だった留学生の多くは入国できないまま。そして、観光客の減少によって学生が語学を活かすかたちで働けるような職場の求人も大きく減ってしまった。  もちろん、日本人学生も「遠隔授業」が多いため、わざわざ大分県内に引っ越さずに実家で授業を受けている例も少なくないとみられ、市内の学生人口は大きく減ったままだ。
別府市比較

近年は世界各国の外国人観光客が訪れるようになっていた別府市。とくに2019年のラグビーワールドカップでは市内に多くの外国人観光客が押し寄せることとなったが、今は閑散としている(別府駅前通り商店街)。

 別府市内の不動産会社によると、2020年秋入学予定だった留学生が2021年春入学生として来日する動きもあるというが、市内で2020年夏に竣工したある賃貸アパートは2021年2月時点で入居済みの部屋数が30室中9室のみであるなど、学生人口の減少は市民経済にも大きな影響を及ぼしている。

町を上げて学生支援の取り組みも

 一方で、学生を支援する動きも起きている。別府市では、早くも2020年5月から官民が協力するかたちで「学生エールプロジェクト」として学生に対して食糧支給などの支援活動を開始。こうした学生への支援事業は、筑波大学がある茨城県つくば市など他の多くの学園都市にも広がっている(なお、国による学生支援緊急給付金制度もある)。しかし、コロナ禍が長引くなか、とくに地方都市では使える予算も限られており、各都市ともに市民や企業の協力により辛うじて実施できているという状態だ。
別府の北浜温泉旅館街

殆どのホテル・旅館が休業しているJR別府駅近くの北浜温泉旅館街。営業を続ける別府タワーが眩しい。コロナ禍までは旅館街で語学を活かして働く留学生も多かった。

 「観光都市」であることを活かすかたちで学生とともに成長を遂げ、「学園都市」としても発展することとなった別府温泉。  しかし、「観光地」「学生街」の両輪が消えた街と、雇用が減った市内に残された学生たちは、将来への希望が見えないままだ。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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