© PHENOMEN FILMS
劇中ではひどい目に遭い続ける、客観的には不幸そのものに見える主人公のナターシャだが、共同監督のエカテリーナ・エルテリは本作で描かれる女性像に対し、「外から見ると、彼女は敗者だと思われるでしょうが、そうではありません。なぜなら、彼女はとてもパワフルで、あらゆる状況を乗り越え、生き残り、そこにあるものを最大限に活用するからです。とても勇敢なことだと思います。誇りを持って生き残ること。自分を失くしたり、諦めたりしないこと。こういった力は過小評価されていると思います。これは世界中の多くの女性をつなぐ力なのですから」と高らかに述べていたりもする。
本作は直接的なセックス、尋常ではないバイオレンスも描かれるのだが、むしろそのことで、物理的にも精神的にも、男尊女卑的な価値観に抑圧されがちな女性たちの苦しみに寄り添っている、フェミニズムの価値観も示した作品と言えるのではないか。最後まで観終われば、「誇りを持って生き残り、諦めない」女性の強さを思い知れるだろう。
本プロへジェクトの撮影期間は40ヶ月、35mmフィルム撮影のフッテージは700時間にも及んでいる。実は、この『DAU. ナターシャ』はプロジェクトの第1弾であり、全体のほんの一端にすぎない。すでに第2弾『DAU. Degeneration(原題)』も同じベルリン映画祭でお披露目されおり、この後も10本以上の映画作品が予定されているのである。
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例え『DAU. ナターシャ』を予備知識なく観たとしても、(その物語のミニマムさも合間って)「これはまだまだ続いていくのだろう」と思えるはずだ。それほどまでに、果てしなき迷宮の入り口に立ったかのような、広大な世界の広がりを感じさせられる内容となっていた。
このプロジェクトがこの後どのように展開して行くのか、そして受け手として追えるのかどうか、それはわからない。だが、この前代未聞のプロジェクトの一端だけでも垣間見られる『DAU. ナターシャ』は、エンターテインメント性はほぼ皆無、18+指定大納得のセックスとバイオレンスありという、およそ万人向けとはとても言えない内容ながらも、間違いなくスクリーンで見届ける価値がある。
<文/ヒナタカ>