――20代前半でナンバーワンホストになり、26歳で店を構え独立してから、ホストクラブの他に、飲食店経営や介護事業にも進出しています。最初からそのように考えていたのでしょうか。
手塚:独立当時には何も考えていませんでした。ところが、独立2、3年目ぐらいにはホストクラブ以外にも事業をやろうと考えていました。その頃には、ビジネスは、売り上げることがもちろん大切ですが、経験や視野を広めるためのツールだと思えて来ました。なので、短期的に3年、5年で大きな会社にしていこうという姿勢はなかったですね。それよりも僕自身が様々な経験をすることが大切であると。
というのも、ホストクラブはマーケット自体が小さいんです。歌舞伎町で一番大きい会社でもホストクラブ単体の売上は100憶ほどと聞きます。どんなにがんばってもそのレベルなので、社会全体の中で意義があり、そして利益の出せることをやりたいと思って、長期的な視野を持って会社経営を考え始めました。
――例えば介護事業など他分野のビジネスパートナーはどのように探したのでしょうか。
手塚:そこは難しくなかったです。20代前半でホストを真剣にやったことが役に立ったと思います。ホストの商売は1人1人が社長みたいなもので、自分という社長がいて、自分という商品がいて、その商品をいかにコントロールするかがカギなんですね。感情を抑えて、どういう風に自分という商品のために時間を使うのか、舵取りをするのか、それが大切なんです。
会社経営には20代前半でホストの仕事について真剣に考えていたことをそのまま移行させることができました。他分野の人と接していても、自分にはビジネスの感覚があるのだと自信を持つことができましたね。
――店舗ごとに責任者的な立場のホストがいますが、手塚さんが指名をしているのでしょうか?
手塚:僕は指名しないです。部活のキャプテンに選ばれるのに似ているかもしれないです。先生がキャプテンを指名してメンバーがそれに従うスタイルもあるかと思いますが、チームメンバーがキャプテンとして認める方が大事です。一店舗大体20名が在籍していますが、ホストクラブはチーム戦なのでメンバーがキャプテンをサポートしようと気になってくれることが大切です。
例えば、巨人軍の監督が原監督に変われば、選手たちは急に「原監督の胴上げするために頑張る」と言い出しますが、ホストはそこまで大人ではありません。本当にその監督を胴上げしたいと思わないと動かない。だから僕が指名するより「なんとなくあいつだよね」という空気にならないと。
独立のサポートは出資です。会社が100%出す場合もありますし、本人がいくらかお金を出して残りを会社が出す場合もあります。
――頭角を表す人の特徴はありますか?
手塚:やる気だと思います。ただ、ホストクラブのリーダーは自分のことだけ考えていたらダメなんです。野心があって「あの人みたいになりたい」だけではダメなんですね。チーム戦なので、みんなに気遣って、声を掛けられる人が向いています。
「魅力的でカッコよくて素晴らしい」人がリーダーになれるとは限らない。理想を掲げて「ついて来い」と先頭を走るより、みんなに声掛けて一緒に並走する人の方が向いています。後ろでもたついているメンバーがいたら、1回止まってあげて声を聞いてあげて一緒に歩いてあげる。そういうことを何回もできるような人がホストクラブのリーダーには向いていますね。
――ホストクラブを卒業した後のことも見据えて社員教育をされていますね。
手塚:やはりホストクラブを卒業して他の場所に行くことになったとしても、その場で通用する人間になって欲しいという気持ちが強いです。
また、自社の経営を考えても、強い組織とは個人が自由に動けるルールが出来ているところだと思っています。会社の創業期にはスピードは求められて、先頭を走る人に一所懸命についていくことも必要かもしれません。でも、ある程度の段階が来たら、それぞれが自立して物事を考えて面白いと思ったことを仕事にして回していける組織がいい組織だと思います。
そして、社内で自由に動けるだけではなく、失敗しても次のチャンスがある、そういうルールや体制があるといいと思います。理想は若いメンバーが利益をどんどん出してくれて、僕は自分の考えたアイデアを小さく繰り返して実践していくことですね。
従業員も年齢が高くなってきたので、別の事業展開もこれまで以上に考えています。従業員は300人弱ですが、会長の自分が食べさせていくというより、みんなが好きなことをして食べていけるプラットフォームを作りたいですね。