なぜ大企業は非正規労働者への休業手当支払いを拒否するのか?

最低労働時間の保障

 新型コロナウイルス禍においては、休業手当を受け取れないシフト制労働者の休業補償要求をうけ、休業支援金制度など緊急的な制度によって対応してきた。従来は中小企業労働者のみにその適用は限定されていたが、大企業のシフト制労働者にも適用されるよう制度改善がなされる見通しである。こうした緊急的な制度創設自体、非常に画期的である。しかしこれによって、企業の労働者に対する無責任を放置してはならない。労働者の生活を守るため、企業のシフト制労働の無責任な運用に規制をかけていくことが必要である。  第1に、新型コロナ禍においては飲食店ユニオンなどの労働組合が、シフトカットされた分の休業手当の支払いを企業に求め勝ち取ってきた。休業手当の支払いを以前拒んでいる大企業に対しても、このように休業手当の支払いを求めていくことが重要だろう。  また飲食店ユニオンは、現に生じているシフトカットに休業手当を支払わせるというだけでなく、「最低シフト・最低労働時間保障協約」の獲得を目指している。「労働協約」とは、労働組合と企業とで結ぶ「約束」であり、法的拘束力を持つ。この協約によって、シフト制とはいえ「これ以上減らしたら補償義務が発生する」シフト・労働時間のラインを定めようというのが「最低シフト・最低労働時間保障協約」である。パート・アルバイトの場合、労働者によって働きたい労働時間が多様であることが想定されるため、2つもしくは3つ程度の労働者カテゴリーをつくり、それぞれで「最低シフト・最低労働時間」を定めることが考えられよう。

休業手当支払い義務の適用

 第2に、法的な休業手当支払い義務をシフト制労働者にも適用するようにして、労働基準監督署が企業を指導できるようにすべきだろう。「シフト制労働者」と一口に言っても実態は様々であり、実際に短期的に労働時間が変動している労働者もいれば、実態としてはかなりの程度労働日・労働時間が固定されている労働者もいる。また契約書上でも労働日・労働時間が詳細に規定されている場合も少なくない。  しかしこうした場合でも、契約書上に「労働時間はシフトによって変動する可能性がある」といった趣旨の文言が挿入されるだけで、労働基準監督署は、労働基準法上の休業手当支払い義務を問うことができなくなってしまう。少なくとも、契約書上で労働日・労働時間の記載があり、実態としてもおおむねそれに従って働いている場合には、シフトが出ていない期間についても、労働基準監督署は休業手当支払い義務を認め、その義務を果たさない企業に対しては法律に基づいた介入をすべきだろう。 <文/栗原耕平>
1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。
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