フジオフードシステムのように、パート・アルバイトに休業手当を支払わない大企業は少なくないが、休業手当支払いを拒否する大企業がその理由としてほぼ必ず主張するのは、「シフト制労働者には休業手当支払い義務がない」というものだ。どういうことだろうか。
「シフト制」労働では、1週間ごと・半月ごと・一か月ごとに決定される「シフト」によって労働時間が決まる。通常の労働契約であるならば、労働契約の段階で労働時間が定められ、使用者の都合でその労働時間未満しか働けなかった場合には、使用者の側に、働けなかった労働時間分の休業手当支払い義務が発生する。
しかしシフト制の場合、労働契約では労働時間が定められておらず、シフトによってはじめて労働時間が確定されるため、シフトが出ていない期間についてはたとえ労働時間を0にしたとしても休業手当支払い義務は発生しないというのである。
実際、2020年11月18日に発表された野村総合研究所の
調査では、休業中の正社員女性の62.8%が休業手当を受け取っているのに対して、休業中のパート・アルバイト女性のうち休業手当を受け取っているのは30.9%にとどまり、69.1%が休業手当を受け取っていないことが明らかにされた。パート・アルバイトが休業手当受給から差別的に排除されているが、この理由の1つはパート・アルバイトの多くがシフト制で働いているということだろう。
こうしたシフト制労働は、企業の側からすると、非常に使い勝手のいいコスト調整手段である。シフトカットで労働時間を減らしても減らした分の給与補償をしなくていいのであれば、それによって柔軟にコストカットできるためである。支払い能力があるにもかかわらず休業手当を支払おうとしない企業の多くは、「柔軟なコスト調整」手段としてのシフト制労働に固執しているがゆえに、休業手当の支払いを頑なに拒んでいると思われる。シフト制労働者への休業手当支払い義務を認めてしまえば、今後シフトカットをした際にはその分の休業手当を支払わなくてはならなくなり、シフトカットによるコストカットができなくなってしまうためである。
飲食店で働く労働者のうち約8割がシフト制で働くパート・アルバイトであるが、経営が不安定で労働集約的な飲食業は、この柔軟なコスト調整手段としてのシフト制労働に大きく依存してきたため、企業のシフト制労働への執着は強力である。
また2000年代に入り、「有期雇用としての非正規労働」の不安定性が様々に問題化され、契約期間満了での雇止めにはいくつかの規制がかけられるようになるなか、シフト制労働は、雇止めや解雇をせずに労働力コストの柔軟性を高める手法として、企業にとっての重要性を高めているとも考えられるだろう。