『鬼滅の刃』から読み解く、「病気と理不尽」への立ち向い方

映画も大ヒットした鬼滅の刃

 Photo: Takaaki Iwabu/Bloomberg via Getty Images

 『鬼滅の刃』のマンガの累計発行部数は1億2000万部、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は興行収入371億円を超え、今や日本でその名を知らない人はほとんどいない、かつてない社会現象を巻き起こしたコンテンツとなった。  改めて本作を結末まで読むと、今のコロナ禍に生きる人こそ希望をもらえる、素晴らしく尊いメッセージが訴えかけられていることに、感涙しきりだった。その理由をたっぷりと記していこう。 ※以下では、マンガ『鬼滅の刃』の最終23巻の内容を含むネタバレに大いに触れている。読了後に読むことをおすすめする。

病気を連想させる鬼たち

 『鬼滅の刃』の物語の大筋は、家族を惨殺された主人公の竈門炭治郎が、「鬼」と化してしまった妹の禰豆子を人間に戻すために奔走し、この世に鬼を蔓延らせ人を殺し続ける元凶である巨悪・鬼舞辻無惨を打ち倒そうとする、というものだ。  この鬼という概念そのものが病気と言える上に、敵となる鬼には名前や状況からして病気を連想させる者がいる。例えば、終盤で戦うことになる黒死牟(こくしぼう)は「黒死病(ペスト)」を連想させる。遊郭で戦うことになる鬼の堕姫(だき)は、人間だった頃の名前が「梅」であり、遊女が実際に恐れていた「梅毒」を思わせる。全ての元凶である無惨は、驚異的な再生能力を持ち細胞を分化させ生き延びようとすることから「がん細胞」、または人類史上初めて根絶に成功した「天然痘」であるという解釈もできるだろう。

ワクチンとなる禰豆子

 その無惨を倒すことができたのは、弱点である太陽の光、その場で(これまでも)戦い続けた者たちの必死の奮闘、そして医師である珠世が短期間で開発した4種の薬のおかげでもあった。そして、無惨の死後に鬼になってしまった炭治郎が人間に戻れたのは、最後に残していた薬と、「炭治郎が最初に噛んだ禰豆子が一度鬼になって人間に戻っているため抗体を持っていた(無惨の細胞に対して免疫があった)」おかげであると、劇中で明言されている。  もはや説明が不要なほど、禰豆子は「ワクチン」または「免疫」そのものだ。鬼を討伐する鬼殺隊は医療従事者で、その中でも強大な力を持つ柱はあらゆる病気に立ち向かう医師とも取れるし、珠世や胡蝶しのぶといったそのままで薬を開発する研究者もいる。  さらに、物語の舞台である大正時代は、現実でスペイン風邪が世界中で猛威を振っていた頃とも重なっている。この『鬼滅の刃』の物語そのものが、多くの人々の命を奪った恐るべき病気に対しての「戦歴」そのものとも言えるだろう。
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理不尽そのものを体現した無惨
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