平和憲法を嗤う『百田尚樹の日本国憲法』に漂う、「平和ボケ」感

桜を見る会の百田尚樹

「アベ友」として桜を見る会にも当然のごとく招待されていた百田尚樹(時事通信社)

 こんにちは、ドリーです。  前回、あまりにも多くて書ききれなかった百田尚樹著『百田尚樹の日本国憲法』(祥伝社新書)の矛盾点について、再び取り上げていきます。 

やたらスイスをヨイショする百田氏だが……

 主張の端々の至るところが破綻していて今回も色々と失笑モノの百田氏の新作『百田尚樹の日本国憲法』(祥伝社新書)なのですが、特に私が笑ったのは、本の中盤で、スイスの話を例に出し始める下りです。  百田氏は、本の中盤、スイスは長年完全武装の永世中立国だと主張し、スイスを持ち上げ、スイスの防衛意識の高さを説き、スイスは「戦争に加担することなく、他国からの侵略も受けていません。徹底して中立を保ち続けています」と、スイスをやたらめったら褒めます。  これも保守の方々が大好きなスイスの完全武装中立論ですが、失笑なのは、百田氏は、スイスに関する歴史的な知識が、全くない事です。第一、そもそもスイスは永世中立国ではありません。中立国には守るべき中立義務があり、スイスは、第二次世界大戦中において、中立義務違反の「常習犯」という評価もあるほどでした。  スイスは、武装と同時に(中立国を装いながら)ドイツにあらゆる援助をしました。中立法では交戦国への軍事物資の輸出は禁止されています(民間は認められている)、が、スイスは、ドイツに火薬や薬莢を送っており、それを軍当局の指示に基づいて行われたことでした。  それがゆえに中立に違反していたと戦後各国に非難されました(『中立国スイスとナチズム』京都大学学術出版会 p366)。  さらにスイスは、イギリスへは軍事物資の輸送と差し止めたが、ドイツには同様の処置を取らなかったのでコレも同様に中立違反だと指摘され、戦後糾弾されました(同、P367)。

スイスが平和を維持できたのは、「外交」と「軍事」によるもの

 このようにスイスが平和を維持できたのは、「外交」と「軍事」によるものであり、平和を「軍事」のみで維持していたと見るのは間違いです。  ああ、あと本の中で、百田氏は、ハーグ陸戦条約は占領地の法律を尊重しろと書いてるのだから日本国憲法の無効論を途中で展開するのですが、ハーグ陸戦条約の適用範囲は「交戦中の占領地」であり「敗戦中の占領地」には適用されません。それは日本政府自身が、第102回国会で、ハーグ陸戦条約は敗戦中の日本には適応されない政府の見解を発表しています。(参照:内閣衆質一〇二第四六号)。    もっと驚愕したのは本の後半です。百田尚樹氏は、護憲派と称する人間の緊急事態条項への不安を一笑する謎の理論を展開していきます。  百田氏は、首相が災害に乗じて民主主義を廃し、独裁国家にする暇などないと述べ、さらに「首相はその対応で不眠不休の日々が続くため、日本の仕組みを根底から覆し、独裁国家にする暇などありません」(P33「百田尚樹の日本国憲法」)と、訳の分からない理論を展開していきます。  百田氏は災害時に権力者は「くたくた」になるから大丈夫説を展開していきます。何が大丈夫なのかサッパリ分かりません
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想像を超える無知っぷりに戦慄するしかない
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