ここで興味深いのは、女性の「合理的」な相手の選別の仕方が時代によって、女性と社会との関わり方、日本全体の経済的要因によって変化していった、という事だ。
バブル期(1980年代後半から1990年初め)では男性の理想とされたのは「3高」。これは「高身長・高学歴・高収入」とバブル期の好景気とそれに伴う競争社会の中で、男性のこのようなステータスが「上質な生活」を提供してくれる、と認識されていたらしい。逆に女性は高学歴でキャリア志向だと懸念され、女子大を卒業して数年働いたら寿退社、というのが理想化された。
この時代は家父長的な結婚の価値観(男が外で働き女は家事・育児)を引きずりつつも、経済的・社会的に「上質な生活」を過ごせることに重きが置かれていた。だがこれも、経済が右肩上がりの時代だったバブル期ならではの幻想で、それもすぐに壊れてしまう。
心理学者の小倉千加子氏は著書『結婚の条件』の中で、バブル崩壊後の女性の理想像は「3C」(Comfortable 快適さ Communicative 理解し合える Cooperative 協調的)と定義した。前述の「3高」に比べると、バブル崩壊後の不景気の中で、女性にとって自分よりも少し上か同じ階層で、一緒にいて快適、また家事・子育てにも協調的な男性が求められた。
結婚相手紹介サービスによって度々行われる調査では、2012年頃の「3平」(平均的な収入・平均的な見た目、平穏な性格)「4低」(低姿勢(威張らない)・低依存(家事を妻に丸投げしない)・低リスク(安定した職業)・低燃費(浪費家ではない))が女性の理想として並び、経済・社会的ステータスよりも個人の人間性に重きを置くようになってきた。兎にも角にも、バブル期が他よりも抜きん出ている男性が理想とされていたのに比べると平均的で、精神・経済的にも安定しており、家事にも積極的に参加してくれる「普通」の男性が求められるようになった。
ただ、これも何を持って「普通の男」と呼ぶのかが問題視されている。婚活分析アドバイザー、三島光世氏は著作『「普通」の結婚がなぜできないの?』(2019)において、婚活女性が求める「普通」男性の年収が500万円とあるが、これは実は「普通」のレベルを超えていると説く。実際に、国税庁の調査によると日本人の平均年収は436万円とのこと(令和2年9月)。また、容姿に関しても自身がイマイチだと思っても、他から見れば「普通」だったり、とここに関しては平均値の線引きが難しいところである。
これは筆者の実感に基づいた感想だが、「普通」の概念がまだ少しバブル期を引きずっているのかもしれない。「3高」の一流企業で働く1000万円プレーヤーからしたら「3平」「3低」の男性は「普通」に見えてしまうのかもしれない。だが、今の日本の経済状況を考慮に入れると、それが全くの幻想だということだ。
逆に、三島氏によれば婚活男性は自分の年齢に関係なく「20代女性」を条件として希望してくる、とのこと。こればかりを見ると、女性が男性に財力を、男性が女性に若さを求めているバブル期的な古い発想は未だ健在であることがわかる。