産後女性と家族をサポートする看護職「ナーシングドゥーラ」とは?

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ミルクを与える奈良さん

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、昨年から外出の自粛やそれに伴う巣ごもり生活が続いている。こうした生活の変化は人との対面でのコミュニケーションを制限し、「子育て」ならぬ「孤育て」に拍車をかけてしまっている。  産後の女性はホルモンの変化や新生児育児のプレッシャーなどにより、特にケアが必要な時期にある。しかし産前の両親学級は軒並み中止されて子育てを学ぶ機会がなくなったり、感染不安から両親や親族の助けを得られにくかったりと、生まれたばかりの赤ちゃんを育てる親は厳しい状況に置かれている。  都内で活動する助産師は、「コロナ禍で、産後の生活にストレスを感じる女性は確実に増えています」と現状を危惧する。  このような状況の中で、需要が高まっている子育て支援がある。「ナーシングドゥーラ」による訪問ケアだ。  ナーシングドゥーラとはどのような職業で、家庭でどのようなサポートを行うのか。看護師で国際ナーシングドゥーラ協会代表理事の渡邉玲子さんと現役のナーシングドゥーラである奈良雅子さんの話を交えながら紹介する。

産後6~8週の女性を看護師資格を持った女性が訪問ケア

 そもそもドゥーラ(doula)とは、赤ちゃんのケアや家事など、産後の女性の身の回りのことをサポートする女性を指す。  ナーシングドゥーラとはその名の通り、看護師資格を持ったドゥーラのこと。看護師資格の有無はドゥーラのケアにどのような影響を与えるのか。その説明の前に、看護師の仕事を整理しよう。  保健師助産師看護師法では、看護師の仕事は「厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」と定義している。  「じょく婦(褥婦)」とは、産後から妊娠していない状態に戻るまでの6~8週間の期間の女性のことで、ナーシングドゥーラのケア対象となっている。  看護師の仕事のうち、「診療の補助」は医師の診断や指示がなければ遂行できないが、ナーシングドゥーラが担う産後女性の身の回りのケア、沐浴や授乳といった新生児の世話、水回りの掃除や料理などの家事などは、「じょく婦の療養上の世話」に当たる。
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笑顔で家庭のサポートへ向かう渡邉さん

看護師の知識と経験がベースにあるから、より手厚いケアができる

 もともとドゥーラとして活動していた渡邉さん。相手は心身共にデリケートな時期にある女性だ。「ドゥーラとして活動する女性たちにじょく婦の心身の状態に関する専門知識があれば、もっと手厚いケアができるのではと思うようになりました」と渡邉さんは振り返る。このことは、ナーシングドゥーラという新たな看護職の創立のアイデアとなった。  専門知識の大切さについて、母乳ケアを例に挙げて説明する。赤ちゃんを出産し、子育てをスタートした女性は、「思うように母乳が出ない」や「赤ちゃんが母乳を飲んでくれない」など授乳の壁に直面することがある。  産科で6年の勤務経験を持ち、現在は神奈川県相模原市を中心にナーシングドゥーラとして活動する奈良雅子さんは、「産科での看護師時代にたくさんのお母さんたちと接する中で、授乳がいかに軌道に乗るかがお母さんのメンタルに大きく影響することを痛感しました」と話す。  看護師であれば、母乳が出るメカニズムや産後の女性の状態についての専門知識がある。ナーシングドゥーラに転向した女性の中には、奈良さんのように産科勤務経験がある人のほか、NICU(新生児集中治療室)や、小児科、保育園看護師として働いていた人もおり、経験やスキルを活かした質の高いケアが可能となる。
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赤ちゃんのいる家庭に寄り添い、ともに子育てをする
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