一般的に「産後ケア」の対象は、お母さんになりがちだ。しかしナーシングドゥーラはサポートの対象をお母さんだけではなく、赤ちゃん、パパ、祖父母など「家族」としている。これはなぜか。
渡邊さん自身がスウェーデンで育児をする中で、同国の産後ケアの仕組みに感銘を受けたのだという。
「スウェーデンには『コミュニティナース』という職業があり、産前から産後までの期間、赤ちゃんが生まれた家庭へ訪問看護を行います。
日本での育児指導は入院中のお母さんに行うことが多いですが、スウェーデンではコミュニティナースがお父さんやおじいちゃん、おばあちゃんなど同居家族に子育てに関する情報を提供し、適切なサポートに繋げていきます。
赤ちゃんは、自分の身を自分で守れませんよね。だから赤ちゃんのお世話は、両親が行って命を守ります。そんな両親も誰かのサポートが必要です。では誰がその役割を担うのでしょうか?スウェーデンでは、社会が赤ちゃんや両親、家族に寄り添い、支援をするのです」
対して日本では「赤ちゃんのお世話はお母さんが頑張るもの」との考えが根強く、子育ては基本的には家庭でどうにかすべき、ととらえられている。
このような状況では、本当は助けを求めたくても周りの目を気にして「助けてください」と言い出しにくい。そして、SOSを出した時には、状況がかなり悪化してしまっているリスクがある。
「もし困りごとを抱える前から、子育て中の家庭に寄り添う人がいたら……」
スウェーデンでの子育て経験から渡邉さんは、お母さんだけではなく、赤ちゃんのいる家族に寄り添ったケアをする人の必要性を痛感。
さらに、ケアの提供者が専門知識を持った看護師であれば、より手厚いサポートができると考え、それまで日本になかったナーシングドゥーラを作るに至った。
育児相談に沐浴指導。家族以外で子育てに協力してくれる人がいることの安心感
ナーシングドゥーラは、家庭でどのようなサポートを行なっているのか。
筆者は次男誕生後から生後2ヶ月までの間、ナーシングドゥーラを利用したことがある。実際にサポートをしてもらう前に行う1時間ほどの面談でケア内容について担当のナーシングドゥーラと相談し、筆者宅では依頼時間を1回につき3時間と決めた。依頼料金はナーシングドゥーラによって違うが、筆者は1時間あたり2600円を支払った。
実際にナーシングドゥーラにお願いしたサポート内容は以下の通り。
・妻のケア(育児相談や母乳ケアなど)
・次男のケア(沐浴やおむつ交換、授乳、寝かしつけなど)
・筆者への育児指導
・掃除や料理といった家事
どの項目もありがたかったが、妻は「母乳の出具合や胸の張りについての相談に乗っていただけたことが特に助かりました」と話していた。
筆者は、沐浴指導を受けられたことが良かったと感じている。長男が新生児だった時に沐浴をしていたし、次男の沐浴も「できるだろう」とたかを括っていたが、次男をいざベビーバスに入れてみると、数年のブランクのせいか手つきがぎこちなくなってしまった。しかしナーシングドゥーラから沐浴指導を受け、一人で次男の体を洗うことができるようになった。
また料理や家事も助かった。お願いしたナーシングドゥーラは料理が得意な方で、限られた時間内に主菜、副菜合わせて2~3品を作ってくれた。その間、妻は睡眠をとって夜間授乳での寝不足を解消し、筆者は仕事に集中する時間の確保ができた。
このような料理を作ってくれる
何よりも、「今日はナーシングドゥーラさんが来てくれる」との安心感は大きく、困ったことがあれば相談できる環境ができたことが嬉しかった。ナーシングドゥーラのように、家族以外で子育てをサポートしてくれる存在は心強い。
なお、感染症対策のため、サポート中はマスクを着用。さらにサポート前日と当日の朝には担当ナーシングドゥーラから体温と新型コロナウイルスに感染可能性のある人との接触有無についての報告がある。