産後女性と家族をサポートする看護職「ナーシングドゥーラ」とは?

退院後も自宅でのサポートを求めているお母さんがいることを知った

 ナーシングドゥーラになるには、国際ナーシングドゥーラ協会が行う養成講座の受講と研修を受ける必要がある。  単位は「子育て支援」や「保育学」など全部で81あり、それぞれにレポートや実技の動画を提出する。たとえば「訪問マナー」の単位では、自宅の玄関に入る様子を録画して協会に送り、サポート先に訪問したときの立ち居振る舞いについて指導を受ける。  どのような人がナーシングドゥーラを志望するのだろうか。渡邉さんによれば、「医療機関では自分が目指す産後ケアができないと感じた方や、自身の子育てで『こんなひとがいたら助かるのに』と感じた方が多いですね」という。  産科に勤務していた奈良さんは、ナーシングドゥーラになろうと思ったきっかけを次のように教えてくれた。 「お母さんたちは産科に入院している間、病院のスタッフからケアを受けられますが、退院後には自分で何とかしなければならなくなります。母乳外来を担当していた時、外来に来られたお母さんたちが退院後も自宅でのサポートを必要としていることを知り、『自分には何ができるだろうか?』と考えるようになりました。そんな時にナーシングドゥーラを知り、『これこそ私が探していた職業だ』と思い、転身を決意しました」  協会には奈良さんのような思いを持った人からの問い合わせが全国から寄せられている。

これからも、赤ちゃんを育てる家庭に寄り添える人を増やしていきたい

 奈良さんがナーシングドゥーラとして活動する時に心掛けているのが、「聞き役」に徹することだ。 「これは看護における傾聴の姿勢です。サポート先のご家族がどのような悩みを持っているのか、どんなことを考えているのかに耳を傾け、適切なケアができるようにしています。  赤ちゃんが母乳を上手に飲めているかの観察や乳腺炎の予防法といった授乳ケアは、マニュアル通りにはいきません。お母さんの体質や性格、赤ちゃんのタイプによって柔軟に対応する必要があります。その際に傾聴の姿勢は大切なんです」  ナーシングドゥーラのケアは継続して行うことが多いため、サポート先の家族との関係性ができてくる。「ある時、『奈良さんは家族のような存在です』と言われた時には嬉しくなりましたね」と、奈良さん。    渡邉さんも、「二つと同じ家庭はありません。なのでナーシングドゥーラには、サポート先によって臨機応変に動く工夫がいるんです。そうしたクリエイティブなところは面白いと思いますね。何よりも、ケアにお伺いするご家庭の方から『ありがとう』と言われるのが、嬉しいですね」と仕事のやりがいや喜びを話す。  お母さんだけでなく、赤ちゃんのいる家庭全体をケアするナーシングドゥーラ。産後ケアの一つの手段として、「利用したい」との声が増えている。渡邉さんは子育てに寄り添いたいとの思いから、ナーシングドゥーラの育成に奔走している。 【渡邉玲子さん】 株式会社イマココ・クリエイト代表取締役/ 一般社団法人 国際ナーシングドゥーラ®協会代表理事。 聖路加国際看護大学卒業後、聖路加国際病院に就職。 スウェーデンでの育児経験をきっかけに、じょく婦へのケアの必要性を感じ、ナーシングドゥーラを国内で初めて創設。 自身も現役のナーシングドゥーラとしてサポートをしながら、人材の育成にも注力している。 【奈良雅子さん】 国際ナーシングドゥーラ協会認定ナーシングドゥーラ。 神奈川県相模原市を中心に、赤ちゃんを育てる家庭の家事と育児をトータルにサポート。 これまでの経験を活かし、心を込めてケアにあたっている。 <取材・文/薗部雄一>
1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。
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