防衛省(手前)と交渉する環境保護団体メンバー。2020年12月17日、参議院議員会館
検出されたジュゴンの音声公開を、頑なに拒否する防衛省
「ジュゴンの鳴き声を公開すると、どんな不都合があるのか?」
防衛省との交渉の場で、環境保護団体のメンバーは思わず首をかしげた。
昨年、国の天然記念物であるジュゴンの鳴き声が、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設現場で200回以上検出された。12月17日、日本自然保護協会ら環境保護団体はジュゴンの音声の公開などを求めて防衛省と交渉を行ったが、防衛省は
「調査会社から録音データを受け取る契約になっていない」ことを理由に、頑なに拒否した。
国際環境NGO
「FoE Japan」事務局長の満田夏花さんは
「このような調査を委託した際、成果物はすべて納品するのが一般的です。調査過程の成果物の一つとして提出を求めればいいだけの話で、理由になっていません」と語気を強めた。
沖縄防衛局、普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会(第29回)資料4「工事の実施状況等について」より(2020年11月)
辺野古の工事事業者である沖縄防衛局は、ジュゴン生息調査と監視を目的として沖縄島北部20か所に水中録音装置を設置している。
鳴き声が検出された場所は埋め立て予定海域付近、大浦湾西側の「K-4」「K5」地点で、昨年2月から8月にわたって204回の鳴き声が録音された。環境保護団体は昨年7月から防衛局に音声の公開を求めてきた。
死ぬ直前のジュゴンの鳴き声が、10時間近くにわたって記録されていた
ジュゴンの鳴き声が検出された大浦湾K4地点付近。奥はキャンプ・シュワブ(2020年7月)
環境保護団体がジュゴンの鳴き声の公開を要請しているのには訳がある。沖縄のジュゴンは
国際自然連合(IUCN)に「近絶滅」と2019年12月に指定され、辺野古で検出された鳴き声は数少ない生息の手がかりの一つだからだ。IUCNは世界最大の自然保護ネットワークで、絶滅の恐れがある生物種についての情報を登録する「レッドリスト」を毎年発表している国際機関である。
ジュゴンは国内では沖縄の海域のみに生息し、個体が確認されているのはたった3頭だ。そのうちの1頭は2019年3月に沖縄島北部西側の今帰仁村の漁港で死骸となって発見された。そして、東海岸の辺野古・大浦湾と嘉陽で生息が確認されていた2頭は、消息不明となっている。
死んだジュゴンの鳴き声は、発見される4日前に10時間近くにわたって防衛局の水中録音装置に記録されていた。つまり辺野古で記録された今回の音声は、11か月ぶりということになる。しかも工事が進む大浦湾で検出された、絶滅寸前のジュゴンの鳴き声なのだ。
昨年4月にジュゴンの鳴き声の検出が報告されて以来、環境保護団体はまず工事を中止し、あらゆる手段を講じて生息状況を把握し、IUCNが2019年に提案した保護計画を実施するよう防衛省に強く求めてきた。
しかし沖縄防衛局は、音声がジュゴンの鳴き声である可能性は認めつつも、ジュゴンの姿および食(は)み跡が確認されていないことを理由に、工事の中止はしていない。また辺野古・大浦湾にジュゴンが「来遊」していることは認めているが、「生息地」としては認めていない。さらに7月には、風によって海上の人工物から出ている音である可能性もほのめかし始めていた。こうした一連の流れは、筆者記事
「辺野古でジュゴンの鳴き声を4か月連続で検知。しかし防衛局は『人工物の音』ということにしたい!?」を参照いただきたい。