政府に文化芸術を支援する気なし? 関係者を落胆させた第3次補正予算の文化芸術活動支援 

政府支援策 ARTS for the future!の酷すぎる支援条件

 次に、小池晃議員は実に250億円もの予算を計上する支援策「ARTS for the future!」に言及する。その支援の条件を以下に抜粋して紹介する。 ●不特定多数に公開することによって収入を上げることを前提とした積極的な活動であること。 ●公演・演奏会・コンサート・ライブ、展覧会等を開催する際、下記のようなイノベーションを図る取組を行うこと。  ・他の文化芸術団体とコラボレーション  ・新たな専門性を有する実演家等を招聘  ・これまで訪問したことのない地域で公演  ・これまで実施していなかった客層へアプローチ (出典:文化庁 コロナ禍における文化芸術活動支援 )  この条件が現場のニーズといかにズレているかを小池晃議員は指摘していく。その質疑は以下の通り。(下記の動画リンクの2分4秒〜) 質疑2 小池晃(2問目): 『それなのに3次補正で文化庁が示している支援策「ARTS for the future!」。何ですか? これ。積極的な活動が条件。他の団体とコラボレーションする。新たな専門性を有する実演家の招聘。これまで訪問したことのない地域や文化施設で、これまで実施していなかった客層へアプローチ。今、なぜこんなことをアーティストに求めるのか。今までやってきたことがやれないで苦しんでいる時に、新しいことをやらなければ支援しないって酷すぎませんか?』 萩生田光一文科大臣: 『えー、文科省としては、コロナ禍に対応するための工夫や文化芸術の充実を図って頂くことが重要であると考え、第3次補正予算案「コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業」において、緊急事態措置の期間中も含め、例えば実施する公演などのオンライン配信や感染リスクも勘案した演出の工夫を行うなど、文化芸術関係団体等による感染症対策を十分に実施した上で積極的な活動を支援することとしております。また、本事業の実施にあたっては、公演の中止に伴う費用等について関係省庁と連携しつつ支援を行えるよう検討すると共に、緊急事態宣言の発令時に遡って支援対象とすることを検討するなど、可能な限り事業者の使い勝手の良い制度としていきたいと考えております。なお、これまでの文化芸術関係団体における取り組みの実績や研究等の蓄積を踏まえ、文化庁において文化芸術活動の特性を踏まえた適切な感染症対策を講じることで感染拡大のリスクを最小に抑えつつ、活動継続や発展させていくため、科学的知見に基づく感染症対策についての検討の場を新たに設置をしました。検討の結果について関係大臣と共有をしながら、今後、文化芸術関係団体にとってどのような有効策を講じることができるか検討してまいりたいと思います。黄信号)』 梶山弘志経産大臣: 『あの、イベント産業につきましてはコロナ禍において、大変厳しい経済環境に置かれております。今回の緊急事態宣言に伴って、一層厳しい開催制限等が課されることになっておりまして、  それらを受けて、えー、このような状況を何とか乗り切って頂くべく、えー、予定されていた音楽コンサート、演劇、展示会などの開催を延期・中止した場合、えー、開催しなくてもかかってしまう会場費等のキャンセルし・・、キャンセル費用の支援をすることとしております。速やかに申請を受け付けられるよう準備を進め、遅くとも2月中には申請受付を開始したいと思っております。これ、上限2500万円ということであります。黄信号)』  この2問目の答弁の中身を確認すると、両大臣ともに全て周知の事実を述べているだけであり、黄信号とした。 <萩生田文科大臣の全て、および梶山経産大臣の2段落目> 第3次補正予算の文化芸術支援の内容 <梶山経産大臣の1段落目> 文化芸術の苦境  また、梶山経産大臣が最後に「上限2500万円」とわざわざ強調したキャンセル費用の支援について気がかりな点があるため、1点だけ以下に指摘しておく。  このキャンセル費用の支援は「J-LODlive補助金」という枠組みであり、補助金額は確かに「上限2,500万円(100%補助)」とある〈参照:Expact〉。だが、申請者は「イベント又は遊園地の主催・運営法人」となっている。つまり、梶山経産大臣が上限金額の高さを念押しするほど長々とアピールしたキャンセル費用支援の仕組みは、フリーランスなどの個人は対象外である。

「マイナスをゼロに戻す」という空想

 先ほどの2問目は質問と回答が全く成立しなかったため、小池晃議員は同じ内容を再質問する。その質疑は以下の通り。 質疑3 小池晃(3問目 再質問): 『今ちょっと、萩生田大臣、答弁なかったんで、こういうこと細かく、新たにこういうことやらなければダメだとか、こんな要件を課すのをやめたらどうですかと私言っているんです。端的に答えてください。』 萩生田光一文科大臣: 『あの、これー、経産省と連携して行っている事業、今、経産大臣からもお話ありましたように分かりやすく言うと、今回の緊急事態宣言でマイナスになった部分はゼロまで戻します。で、さらなる上乗せについては新しいことをやったところに支援をしたいということなので、率直に申し上げて、その、あの、動ける団体と動けない団体があると思うんです。で、我々としては、その、ポジティブに動ける団体は是非このコロナ禍であっても活動を続けてもらいたいということで、その、従来の形ではなくてですね、えー、一つオプションを増やしてもらうということで応援をしたいと思っているところでございます。赤信号) 』 小池晃(4問目 再々質問): 『従来の活動ができないでいる時に、従来を超えたことしか支援しないで、それで支援にならないでしょうと私、言ってるんです。お答えください。』 萩生田光一文科大臣: 『あのー、従来の活動ができなくなったことについては、ま、補償という言い方をするとちょっと誤解を招くかもしれないんですけれども、マイナスをゼロにする仕組みを経産省と一緒に行ってます。で、それは、あのー、じっとすれば、そこでマイナスはゼロになるんですけど、それでは、やっぱり団体は稽古もしなきゃなりませんし、動かなけりゃならないので。そういうことに対して、まあ、言うならばプラスオンをしようということで今回補正を積ませて頂いたということでございますので、これは、あのー、団体の皆さんともよく相談をしてスタートをしたつもりでおりますので、あの、そんなに先生が思っているほど複雑なことではなく、是非動けるところには動いて頂きたい。こう思っています。赤信号)』 小池晃: 『みんなね、これではやれないと声をあげてるんですよ。でねー、今までは、そのー、個人も対象にしていたけど、今度は団体だけにしてしまったという問題もあります。やっぱり、そもそも、こういう何か新たなことやらないとダメだって言っているのは三次補正の枠組みそのものがコロナ収束を前提としてるから、こんなことになるんだと思うんです。』  2問目〜4問目にかけて、小池晃議員は実に3回も同じ内容を質問したが、結局、回答にあたる内容は一言も無かった。3問目と4問目の答弁の中身を確認すると、全体を通して以下のように論点をすり替えており、赤信号とした。 【質問】ARTS for the future要件の是非 ↓ すり替え 【回答】ARTS for the future要件の意図  また、萩生田文科大臣は一見すると最もらしい内容を答弁しているが、実際には現場の認識と乖離した内容が散見されるため、3点ほど以下に指摘しておく。 <1点目:マイナスをゼロに戻す>  「マイナスになった分はゼロまで戻す」と2回ほど発言しており、これは今回の緊急事態宣言による会場などのキャンセル費用の支援を行う「J-LODlive補助金」を指していると思われる。だが、キャンセル料を支援されただけでは、収支は決してゼロには戻らない。公演を中止して収入は無くなっても、団体であれば事務所や稽古場の家賃、スタッフの給料など毎月の固定費を支払わなければならない。「ゼロに戻す」という発言は、完全に机上の空論だ。 <2点目:オプションを増やす>  ARTS for the futureについて「動ける団体はコロナ禍であっても動いてもらって、1つオプションを増やしてもらう」という主旨の発言をしているが、この制度は概算払いがされないという落とし穴がある。つまり、イベントの費用を自ら立て替えて、イベント終了後に助成金をようやく受け取るので、まとまった金額の資金がなければ利用できない制度設計になっている。現に、「文化芸術に携わる全ての人の実態調査アンケート」で「今後、助成金を利用して企画を立ち上げる場合、概算払いなしでできますか?」という問いに対して、5081件の回答のうち、「出来ない」が81.6%を占めている。 (出典:文化芸術に携わる全ての人の実態調査アンケート Q2-3<3点目:団体の皆さんと相談>  加えて、「団体の皆さんともよく相談してスタートをした」と平然と言ってのけて、あたかも文化芸術の関係者がこの支援内容に同意したかのように振舞っているが、今回の支援内容に対する困惑や反発の声は多い。以下、当日の質疑内容や可決された支援内容への反応をツイートを引用する形で紹介する。
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本当に文化芸術関係者と相談したのか?
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