また、この事件をきっかけに宮南さん、永井さんらは便利屋仲間5名で協力し、リサイクルショップと便利屋の「よろず屋いちばん」を北区にオープンした。同店の菅谷圭祐さんは「プラットフォームを利用したビジネスは誰でも好きな時に好きな仕事ができるという利点がある反面、営業能力が高くならないこと、またサービスの提供が1度きりになってしまう」と問題点を指摘した上で、地域に根付いたサービスを展開したいと語った。
マッチングビジネスには、プラットフォーム側と現場の作業員との間にあるのは利用規約のみで雇用関係がない。よって、現場作業員のプラットフォーム側に対する団体交渉は一定の場合を除いては認められないのが実情だという 。しかしながら、現場の作業員は、事実上はプラットフォームの側に従属する形で働かなくてはならない場合もある。
この点、フランスでは2016年8月に労働法が改正され「プラットフォームの社会的責任」という章の創設により、現場作業員からプラットフォームへの団体交渉が可能になったが、日本ではそこまで制度が追い付いていない。
コロナ禍によって雇い止めにあった非正規雇用者や仕事が激減したフリーランスがマッチングサービスを通したサービス提供に流れていると聞くが、その労働環境は整備された状況とは言い難い。制度の不備については立法的な解決を望むと共に、プラットフォーム側には、現場の作業員の労働環境に対するさらなる配慮も必要であると言えるだろう。本件訴訟がそうした状況の改善につながることを祈りたい。
<取材・文・撮影/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。