避妊について女性医師に相談するシーンや中絶について悩むシーンなど、本作は女性の視点で細やかに物事が描かれている。男性であるペマ監督はなぜこのような描写ができたのであろうか。この点について尋ねると、ペマ監督はフェミニズムや女性の視点でこの映画を作り上げることは全く意識していなかったという。
「赤い風船にインスピレーションを受けてから、ストーリーを作っていく段階でエピソードを肉付けしていました。チベット族の女性を主人公にした小説も書いていたので、彼女たちが置かれている現状については関心を持っていましたが、フェミニズムを描きたいと思ったことはありません。他の映画を撮るのと同じで、彼女たちの心の動きを描きたい、そしてチベット族の女性が置かれている状況を小説や映画を通して知ってもらいたいと考えていました。それが今回の作品で実現できたのはとても良かった」
また、コンドームを風船にした男の子たちが近所のおじさんに説教されるシーンや中絶手術をしようとする病室に父と息子が登場するシーンがある。性教育については日本でも度々話題になるが、チベットでは性に関する話題はタブーの領域であり、本作が現地で公開されたとしても、一家揃って見に行くことはないのだそうだ。
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性の話題は「子どもはもちろん、他の人にはオープンにしたくない」というのがチベット人であり、それを表現したのが、ドルカルが避妊手術の相談相手に男性医師を避けたシーンであるとのこと。ペマ監督は一見、シリアスに見えるこのシーンも「ドルカルと女性医師のガールズトーク」風にユーモラスに描いている。