東京地裁前で取材を受ける三崎優太氏と立花孝志氏
立花孝志さん。「NHKから国民を守る党(N国党)」改め「NHKから自国民を守る党」党首。「NHKをぶっ壊す!」というスローガンで知られる。「見ていなければ受信料を払う必要はない」と主張し、集金に関する苦情を受けつける。受信料で成り立つNHKにとって、天敵のような存在だ。
その立花孝志さんと初めてお会いしたのは一昨年。2019(平成31)年9月、東京地裁前でのことだった。彼も私も元NHK職員だが、立花さんは経理畑、私は報道畑で、互いに面識はなかった。
その日、「青汁王子」の名で知られる三崎優太さんの脱税事件の判決が、東京地裁であった。私たちはいずれも三崎さん目当てで東京地裁に来た。ただし、目当てにする目的はまったく違った。
三崎さんは、青汁など健康食品のインターネット通販で20代にして巨額の冨を築き、「青汁王子」ともてはやされた。しかし国税当局から脱税で摘発され、人生は暗転した。不服はあっても判断を覆せる見込みはないが、どうしても納得できないことがある。そう言って彼は私に相談してきた。
三崎さんが摘発された時、国税当局トップの国税庁長官だったのは佐川宣寿氏。森友事件をめぐり「問題の土地取引に関する文書はない」と国会でうその答弁を繰り返し、その陰で公文書を改ざんさせ、国有地の不当な値引きをごまかした人物だ。
彼こそ、まず罪に問われるべきではないか。三崎さんは、そう訴える動画を作成し、判決直後にユーチューブで公開しようと決めた。そして、その動画をインスタグラムやツイッターで広めてくれた人の中から180人を選び、100万円ずつ、合計1億8000万円を配るという、何とも奇想天外な拡散方法を考えた。
さすがネット通販で財をなした人物だけのことはある。奇抜な発想だが、訴えていることに理はある。そう考えてこの日、
ヤフーニュースで記事にした。
私はこの記事を出すため東京地裁前に行ったのだが、立花孝志さんの目的は違った。選挙だ。この年7月の参院選で、立花さんは比例代表で初当選し、N国党(当時)は初めて国会に議席を得た。同時に選挙区の得票率が政党要件を満たしたため、政党助成金を受けられるようになった。この頃、まさに上り調子だった。
次は来たる衆議院総選挙を見据えて、知名度のある有力候補を探したい。そんな時、派手な振る舞いで注目を集めていた元「青汁王子」こと三崎優太さんに目をつけた。彼の選挙での擁立を見据えて何かと助言をしていたから、この日も東京地裁に駆けつけたのだ。
判決後、立花さんは三崎さんと並び2人で報道各社の取材を受けた。そこに私もいたから、互いにあいさつを交わすことになった。実はその前から、フェイスブックで立花さんから友達申請が届いていた。
2020年2月、大阪地裁前で籠池夫妻の一審判決後、籠池諄子氏とともに取材を受ける三崎優太氏。籠池泰典氏がこの場にいないのは、実刑判決で地裁から出てこられなかったため。立花孝志氏もこの場に居合わせた
5か月後、今度は大阪地裁前でお会いした。森友学園の元理事長、籠池泰典さんと妻の諄子さんの刑事裁判の一審判決の時だ。裁判所に駆けつけた立花さんの目的は、三崎優太さんの時と一緒だった。籠池夫妻を経済的に支援するとともに、知名度のある籠池泰典さんを選挙に担ごうと考えていたのだ。
この頃、私は何度か立花さんとやり取りをしたり面会したりしている。その後いろいろあって、三崎さんも籠池さんも今は立花さんと距離を置いている。少なくとも立花さんの党から選挙に出る考えはないことを、2人から確認した。だが、立花さんが2人に声をかけた時はN国党(当時)に勢いがあり、次の選挙で躍進するかもしれないと感じさせたことは事実だ。
その勢いは、まず2019(平成31)年4月の統一地方選で一挙に26人を当選させたことに始まる。その3か月後の参院選で立花さんが初当選し、国政進出を果たす。2013(平成25)年の結党以来、ずっとNHK批判で通してきた主張は変わらないのに、急に支持が増えたのはなぜだろう?
立花孝志氏
N国党躍進に先立つ1年間に何が起きているか? まず前年の2018(平成30)年、私が記者職を外されてNHKを辞めている。森友事件で政権に不都合なニュースを出すことで、当時の報道局長に目をつけられていた。でも、これは関係ないだろう。NHK内部で起きていたことで、外部の人にはほとんどわからなかったはずだ。
問題は同じ時期に、視聴者に見える形で起き始めた。この年の8月、自民党の総裁選に安倍首相(当時)が続投を目指して立候補を表明した。地方視察中の鹿児島で桜島を背景に表明するのを、NHKは生中継。続いてスタジオで岩田明子氏が首相立候補の背景について時間をかけて解説した。「安倍首相にもっとも食い込む記者」として知られた政治部記者だ。「NHKは首相べったり」の印象を視聴者に強く印象づけた。