何が本当の問題なのか? 『宮本から君へ』助成金不交付決定取消訴訟について聞く

助成金不交付にされた『宮本から君へ』

 熱血営業マン宮本浩(池松壮亮)が、恋人・靖子(蒼井優)のために奮闘する姿を描いた映画『宮本から君へ。一昨年9月に公開され、愚直に靖子を愛し強者と闘う宮本の姿は多くの観客の胸を打ち話題になった作品だ。  その『宮本から君へ』の製作会社、株式会社スターサンズが一昨年12月20日、助成金不交付決定の取消しを求めて東京地方裁判所へ提訴したことは記憶に新しい。芸術文化振興会(芸文振)の専門家会議で助成金の「交付」の内定がされたものの、「公益性」の観点から適当ではないとの理由で最終的に不交付の決定を下されたこの事件。今月27日に3回目の期日が予定されている。助成金不交付決定が「表現の自由」の萎縮になるという理由で訴訟は提起されたが、その問題の本質はどこにあるのか。  ここで改めて事件の経緯を紹介すると以下のようになる。 1.平成30年10月末に撮影終了 2.平成30年11月末に助成金交付要望書を提出 3.平成31年3月12日に映画の完成・同日にピエール瀧氏の逮捕 4.平成31年3月下旬に助成金交付決定が内定 5.平成31年4月1日にスターサンズ社がした助成金交付申請を芸文振が保留 6.平成31年4月末に映画の試写会開催時にピエール瀧氏の出演シーン、再撮影の意思がないか芸文振側からヒアリングが行われる→スターサンズ社は拒否 7.令和元年6月下旬に芸文振側から助成金の受け取りを辞退するようスターサンズ社側に要請→スターサンズ社側は拒否 8.令和元年6月18日にピエール瀧氏が懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受ける。 9.平成元年7月10日に助成金の不交付決定が下りる 10.令和元年12月20日に処分の不交付決定の取り消しを求めて東京地方裁判所に芸文振を提訴  ピエール瀧氏の逮捕があった後に、芸文振側は助成金交付の内定を下している。にもかかわらず、6月下旬に「公益性の観点から適当ではない」という理由で不交付決定したのはなぜなのだろうか。第2回期日で芸文振側は助成金の交付は公益性の観点から適当ではないことの立証として民間企業による意識調査のアンケートを提出したが、果たしてそのような意識調査で「公共性」は測れるものなのだろうか。今回は事件の背景と問題点についてこの訴訟の原告側代理人の主任弁護士である四宮隆史弁護士に話を聞いた。

あるべき「公益性」の判断とは

四宮隆史弁護士

四宮隆史弁護士

――この事件を引き受けた経緯についてお聞かせください。 四宮:3月下旬に助成金交付の内定が芸文振から出たものの、4月1日の助成金交付申請が保留され、スターサンズ社に対する助成金の交付は正当である旨の意見書を書いて欲しいとの依頼があったことがきっかけでした。というのも、助成金の交付の可否は専門委員会の審査によってなされるので、内定が出た後の助成金交付申請はあくまで形式的なものです。内定が出ればそのまま助成金が下りるのが普通なんですね。そこで、出演者の逮捕という事情はありましたが、意見書を提出すれば助成金が下りるかもしれないと依頼が来たんですね。意見書を書いたのはゴールデンウィーク明けぐらいでしたがその段階では芸文振側は明確に「出さない」という姿勢ではありませんでした。 ――第三者の専門家からなる専門委員会による内定が出たにもかかわらず、詳しい説明もないまま「公益性」という文言を用いて判断を覆したのは恣意的な行政処分とも取れます。 四宮:やはり補助金は税金である以上何らかの形で「公益性」の判断は必要だと思います。ただ、今回の裁判で芸文振が考慮すべき「公益性」は、助成金の交付が「芸術文化活動に寄与するのか」という点のみから判断すべきだったのではないでしょうか。  というのも、その判断は各行政機関の役割に紐付いていなくてはならないですよね。それぞれの活動目的に応じた「公益性」を考えるべきなんです。そして、それは当然、厚生労働省など他の省庁が考える「公益性」とは違います。そう考えると芸文振の考える「公益性」とは、やはり「文化芸術の振興や向上」に資するか否かによって判断されるべきなんです。  芸文振は「交付決定をすると政府が薬物を促進していると国民に受け取られかねない」ということを理由に不交付決定をしたと主張していますが、薬物事犯云々は厚生労働省が考えるならまだしも、文化庁がそれを最初に考えるのはやはりおかしい。しかも、この映画は薬物事犯とは何の関係もない映画です。  また、第三者から構成される専門委員会が「この作品に助成すべき」と言って一度内定を出したにもかかわらず、あるキャストの逮捕のみを理由として「公益性」を損なうと判断したのであれば、逮捕によって作品の文化的価値が下がったと判断したことにもなり兼ねません。  この作品に助成金を交付することが「文化芸術の振興や向上につながらない」と判断するのであれば理解できるのですが、相手方の主張は「薬物事犯に対して寛容だと受け取られたくない」というのが理由でした。判断の基準が違うと感じています。 ――例えば、「作品はスタッフ・キャストとは独立した存在」という考え方を取れば不祥事を起こしたキャストの降板は起こり得ないとも言えますが、その点についてはどうお考えになっていますか。 四宮:作品とキャストは別と考えれば今回の不交付決定は成り立たないと思います。例えば、CMなど俳優の素のイメージで起用している場合であれば降板は仕方のないことなのかもしれません。しかし、劇場映画は見たくなければ見に行かなければいいし、作品の評価や文化的な価値は出演者の一人が罪を犯したからと言って毀損されるものではないですよね。例えば、勝新太郎さんが大麻で逮捕されたからと言って『座頭市』という作品の価値が下がったのか、ということです。  この問題は、今回のような薬物事犯以外でも不倫等で出演することが決まっていた作品を降板するケースにもあてはまると思います。
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不交付決定の理由はバッシングへの「忖度」
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