住民投票条例には首長が意見を付議する規定となっている。この市長意見を巡っても林市長は幾つもの問題行動を起こしており、それらを井上さくら市議は順に指摘している。以下、その内容を抜粋して紹介する。(下記の動画リンクの4分10秒〜)
井上さくら:
「さて、今回の住民投票条例実施のための議案、特に条例制定についての意見案についてです。この意見案では4つの理由を挙げ住民投票実施の意義を否定しています。
まず住民投票一般について、国の地方制度調査会での議論を引き合いに住民投票の位置づけの難しさなど記載し、また法的拘束力のないことと実施コストの問題を抱き合わせるなど、そもそも基本的な住民自治への見識を疑わせます。
さらにIR整備法で手続きが定められているから、住民投票を実施することには意義が見出し難いと主張していますが、言うまでもなく、IR整備法で例示されている手法以外の方法を取ることはなんら妨げられておらず、これを以って市民の求める住民投票を否定することは自治体としての主体性を毀損することになります。
そして4点目の代表民主制が健全に機能しているとして住民投票実施が議会での議論を棚上げするとの認識は、代表民主制と市民の認識や議論、行動を切り離す住民自治と民主主義にとってあまりに危うい考え方だと言わざるを得ません。
住民投票を行う意思が市長に無いということは確かに分かりますが、だとしても、なぜこんな、かえって住民自治への見識の無さ、民意というものへの偏った見方。地方自治や民主主義という価値と、これを多くの犠牲を払って築いてきた先人への敬意を全く感じさせない文章。IRの是非を超えて、自治体としての立脚を忘れているようなことをなぜ書いてしまうんだろうと。今後、横浜市の地方自治体としての発信力に傷がつくのではないかと心配になるほどです。
また、事前に市長が記者会見で語っていた「住民投票の結果を尊重する」あるいは「条例についてはニュートラルな気持ちで」などの発言ともあまりに乖離しています。
私はこの意見案がどこでどう作成されたのか、どのような問題意識や議論があって、また市長自身の意見はどうであったのかを確認しようと、この意見案策定に至る会議録、決裁文書、一切を資料請求しました。ところが、出てきたのはA4の紙1枚。右肩に令和2年12月23日。これは住民投票の直接請求が実際なされた日ですが、その日の市長説明資料とあるだけで、最終的に議案に付されたものと一言一句違わない文章でした。
市長説明資料とは書かれていても、その会議の議事録もなく、市長がどのような考えを示したのか。それまでの自らの発言と整合が取れないことをどう調整したのか、誰が出席をしたのか、草案は誰がつくったのか。何も記録に残っていません。
40年ぶりの市民の直接請求による条例制定という大変重要な問題で、議論のプロセスは全く明らかにされず、市長をはじめとする庁内で真剣な議論がされているのか疑わざるを得ません。」
井上市議の討論はいったんここまでにして、内容について解説していく。
まず、問題となっている林市長の意見は以下のようなものであった。
<林市長 意見の概要(横浜市会 令和3年第1回臨時会 議案提出一覧資料より引用)>
(1)法律に基づく直接請求がなされたことは、市民の皆さんの関心の表れとして受け止めている。今回求められている「住民投票」は、国の地方制度調査会において検討された経緯があるが、種々の検討すべき論点があり制度化には至っていない、位置付けの難しいもの。
(2)個別の法律に基づいて実施される住民投票には法的な拘束力があるが、条例に基づく住民投票には法的拘束力はない。住民投票の結果は、政策決定にあたっての考慮要素の一つだとはいえるが、その実施コストのことも十分考える必要がある。
(3)特定複合観光施設区域整備法が地域における十分な合意形成を求め、様々な手続を定めている中で、加えて住民投票を実施することには意義を見出しがたい。
(4)さらに、IRについては、これまで様々な観点から議会において議論が積み重ねられており、住民投票を実施することはこれまでの議論の棚上げを意味する。IRの全体像は事業者とともに作成する区域整備計画において具体化していくので、市民の皆様に丁寧に説明を行うとともに、議会における議論を基本とし、法定の手続を着実に進めていくことが重要と考えている。
何としても住民投票は実施したくないという強い意思があらわれている上、井上さくら市議も指摘しているとおり、現行の地方自治や民主主義の制度そのものを否定しているかのような危うさを感じる文章になっている。
しかも、明らかに反対と受け取れる意見を付議しておきながら、記事冒頭で述べたように林市長は昨年11月の記者会見では「ニュートラルな立場で意見を付ける」とまで言っていたわけだから、その二枚舌ぶりには呆れるほかない。
*首長は賛成もしくは反対の意見を付議する規定のため、そもそもニュートラルな意見を付議することは規定上は不可能であり、記者会見に参加した記者がその点を指摘しても頑なに「賛成反対といった直接的な表現はしない」と林市長は述べていた。
そして、この市長意見の意思決定プロセスが完全に不透明である点は、2019年8月22日のカジノ誘致表明記者会見に至る1ヶ月間のプロセスがブラックボックスであったこととそっくりだ。林市長はこうした不透明な意思決定を確信犯かつ常習犯として行なっている。
*詳細は過去記事「
問題だらけの横浜カジノ補正予算案。明るみになった12の事実」参照
次に、IR整備法基本方針に明記されている「地域における十分な合意形成」が全くなされていないことを井上さくら市議は指摘している。以下、その内容を抜粋して紹介する。(下記の動画リンクの7分33秒〜)
井上さくら:
「今回、今日でわずか3日間ですが、この条例案の審議の中で、少しその背景を見る思いをしました。昨日この議案が審査された、政策・総務・財政委員会を最初から最後まで傍聴いたしました。その中で、「住民投票を否定するなら、いつ、どのようにして民意を得るのか少なくとも地域における十分な合意形成を確保すべきである」とIR整備法 基本方針で明示してある。これをどう担保するのかという質問が各委員から繰り返し出されました。これに対して平原副市長が主に答えていましたけれども、その内容はIR法に例示された県との協議会、公聴会、最後の議会議決。この言葉に終始し、その上で、なんと
『IRは国家的プロジェクトでありその枠組みに従って、なんとか間に合わせなければならない。国の申請期間、国のスケジュールの中でなんとか実現したい。』
まあ、これが本音なんだなというふうに私は感じました。IR法でさえ、地域における十分な合意形成を確保すべきであると明記しています。それはこの事業が長期にわたり、かつこれまでにない大規模な投資を求めるものであるからこそ、将来を含めた事業の安定のために地域における十分な合意形成が不可欠だと言っているわけです。
合意形成とは一人でできるものではありません。相手があることです。そして、合意形成が条件であるということは、つまり合意されなければその先には進めないということです。にもかかわらず、平原副市長らの幹部の認識は、国に申請することはすでにもう決まった前提であり、それを何とか今のスケジュールの中で間に合わせなければならない。ひたすらその意識で突っ走っているのだということがこの発言からも明らかです。
法定の合意形成すら、今の横浜市はアリバイとして通過できれば良いとした考えておらず、確かにその認識では民意とは、ひたすら自分たちの決めた進路、スケジュール、ギリギリのスケジュールを邪魔する障害でしかないということになるんでしょう。民意というものも、首長、行政組織の外に分かれたり、むしろ対立する存在と捉える意識が、普通ならこんなふうに書くかという市長意見のベースにあるということを私は感じました。」
井上市議の討論はいったんここまでにして、内容について解説していく。
ここで問題になっているIR整備法の基本方針は
観光庁Webサイトで公開されており、基本方針概要資料の「第2 IR整備の推進」にはっきりと以下のように記載されている。
<基本方針概要資料より引用>
“IR整備の推進に当たっては、IR事業の公益性や、地域における十分な合意形成を確保。“
井上さくら市議も指摘しているとおり、
平原副市長を始め、林市長や自民党・公明党の市議たちは国が定めた法律でここまで明確に書かれた方針すらも無視して、カジノ実現に向けたスケジュールを最優先して暴走していることが分かる。