No3~5は市長の意思決定プロセスが極めて不透明であることを明らかにしている。
No3「市長がIR誘致を決断する2019/7/31より前の2019/7/25に副市長たちは既に補正予算案を検討」について。林市長がカジノ誘致を決断したのは、7月31日の会議であると横浜市はこれまで説明していたため、井上委員は当日の説明資料の提示を求めていた。しかし、
当日に出てきた資料は8月22日の記者会見資料そのものであった。この会見資料はタイトルが「
IRの実現に向けて」であり、IRを実現することが既に決定した前提でつくられた資料である。さらに、約1週間前の7月25日に開かれた会議「IR検討プロジェクト」で横浜市はカジノ補正予算案についても検討を始めている。つまり、
林市長がまだIR誘致は「白紙」と公言していた時期、小林副市長を始めとする横浜市の職員たちはIR誘致を前提に動き始めていた。
以下、この件を井上さくら市議が指摘した際の横浜市とのやりとりの抜粋を紹介する。
井上さくら委員:市長はIRをやるかという重要な政策判断をまだやってない。しかも、「白紙」と表明していた。でありながら、副市長たちは先に「IR実現に向けて」という資料を作り出していた。事実としては、そうですね?
局長:前提として、あくまで補正「案」を作っているということ。(筆者注:「案」を強調して発言)
井上委員:いや。だから、案を作ってるのは分かってる。だけど、「IR実現に向けて」という資料を市長は「白紙」と言ってる段階で副市長たちが作り、補正予算案の可能性があると周知したことは事実ですね?と確認してます
小林副市長:9月補正に出す場合の「案」を作っているということ。
井上委員:そこを認めたくないのかもしれないけど、事実として、そういうことでしょう。
先走って資料をつくったことが事実かを井上委員は質問しているのに、
副市長は繰り返し「あくまでも案だ」と論点をずらしている。最後に井上委員が指摘した通り、よほど「認めたくない」のだと思われる。こうした市長の意思決定プロセスの不透明さが明らかになり、井上委員はこうも付け加えている。
井上委員:副市長たちは、まるで本来の上司である市長以外の誰かが上司であるかのように行動してるのが全くもって不可解。つまり、公式の上司ではない誰かの言うことを聞いて副市長たちは動いてる。
「白紙」方針変更の決断に至るまでの会議録はないの一点張り
続いて、
No4「市長がIR誘致を決断した2019/7/31の議事録を横浜市は作成していない。当日の市長の発言は一切不明」、No5「同会議のたった15分間で市長は『白紙』から『誘致』に方針を急に変更」について。林市長がIR誘致を決断したとされる7月31日の会議で、市長がどのような発言をしたのかわかる資料を井上委員は要求していたが、当日に提示された資料には「上記について了承された」としか記載がなかった。これまでの
「白紙」方針を変えるだけの決断をしたのだから、これまで市長が気にされてきた依存症対策や国の動きに関する質問が出て当然なのに、そうした発言が書かれていない。
以下、この件を井上市議が指摘した際の横浜市とのやりとりの抜粋を紹介する。
井上委員:7月31日、市長がIR誘致を決断した会議で、市長発言は「上記について了承された」しかないが、本当にこれだけ?そもそも時間は「15:20~15:35」とたった15分間だが、本当?この分厚い会見資料だけでも15分じゃ説明できないでしょ。で、たった15分で市長は白紙から急に方針を変えたとでも?
小林副市長:ここに書かれている通り。(※筆者注:副市長の言う ここ(=当日の資料)には、「上記について了承された」としか書かれていない)
井上委員:じゃあ、7月31日は市長からの発言は全く無かったということ?
小林副市長:依存症対策や説明会について、どうだったかというやりとりはあった。最終的に了承となった。
井上委員:会議録は取っていない?
小林副市長:録音は取ってない。
井上委員:会議録は取ってないんですか?(※筆者注:同じ内容を再質問)
小林副市長:会議録という録音は取ってない。
井上委員:録音はしなくても、メモは取るでしょう。依存症や説明会について市長とやり取りしたと言うから、その内容を聞いている。市長がどういう疑問を持ったのか市の職員にとっては大事なことで、その市長がどんな意見を言ったか、メモすら取らない?どうなってるの、一体?
林市長の発言内容を頑なに答えないため、井上委員が会議録の有無を確認したところ、副市長は録音の有無に論点をすり替え、それすらも答えようとしない。市長が誘致を決断したとされる7月31日の会議の詳細は何が何でも隠したいという横浜市の思惑が読み取れる。
以上、12の事実のうち、1~5まで足早に紹介した。明日朝配信の
後編では、6~12の事実に関するやり取りについてさらに紹介したい。
なお、このカジノ補正予算案については、明日9月20日14時からの本会議において可決される見込みである。
<文・図版作成/犬飼淳>
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いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身の
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