「地元・小田原の間伐材で楽器を作ろう」。コロナ禍の中で、音楽と森がつながる

森が地元の環境を豊かにし、音楽が人の心を豊かにする

カホンのDIYキット

カホンのDIYキット。必要な部品がすべて揃い、ビス穴も事前に開けてあるので、自宅でも簡単にDIYができるようになっている。小田原のヒノキを使用

――森を手入れすることが地元の未来に繋がるということでしょうか。 福田:音楽教室にはたくさんの子どもたちが通っています。髙木さんや森に関わる方々に出会って、改めて子どもたちに幸せな未来を残したいと思うようになりました。そのための一歩がカホンのDIYキットなのです。  同業者の集まりでも、カホン以外の楽器やピアノの椅子など音楽専門品を間伐材で作ってはどうかと提案が挙がっています。小田原以外の地域にも広がる可能性を感じています。 ――音楽と森がこのように繋がることが意外でした。カホンDIYキットの販売はコロナ禍でこそ生まれたものだと思います。現在、音楽教室の状況はどうでしょうか。 福田:コロナ禍の中で、音楽教室の運営にも苦労がありました。音楽教室はどうしても密な状態でレッスンを行うため、昨年の2月末から5月末までは教室を休まざるを得ませんでした。そんな中でも休止の手続きにわざわざ事務所まで顔を出して「再開を待っています!」と声をかけてくださったり、生徒のみなさんから励まされたりする立場になりました。  音楽教室は地元の方々がいてこそ成り立っているのだと、改めて感じました。整えられた森が地元の環境を豊にするように、音楽が人の心を豊かにしているということも感じました。制限のある生活の中で必要最低限で暮らすだけでは人の心は満たされないのだと思います。  教室が休みの間、河川敷や海岸で楽器の練習をする人を見かけました。レッスンはできませんが、教室を無料開放して少しでも音楽に触れられるようにしました。コロナの現状を考えると、遠くに出かけて楽しむというのはまだしばらく難しいと思います。  遠くに行かなくても地元の音楽教室で楽しんでいただけるように、消毒や換気の対策をしっかり行ったレッスンやオンライン発表会など、工夫しながら運営を再開しています。

コロナで大変な時だからこそ、音楽を届け続けたい

ピアノ・エレクトーン・トランペット・オカリナなどを演奏する多才な藤井空さん

ピアノ・エレクトーン・トランペット・オカリナなどを演奏する多才な藤井空さん。YouTubeチャンネル登録者数が1万6000人を超える人気ユーチューバーでもある

 大村楽器でピアノ・エレクトーン・トランペット・オカリナの講師をしている藤井空さんにも話を伺った。 ――コロナ禍になって、音楽教室やご自身の活動にどのような変化がありましたか? 藤井:教室でレッスンができない間は、リモートでレッスンを行いました。今は教室でレッスンできていますが、窓を開放して換気を徹底し、生徒さんとの間に透明のビニールカーテンを引いて授業を行っています。安心して、思う存分レッスンができるようになってほしいです。  自身のミュージシャンとしての活動も、一時期はライブが行えませんでした。「どうにかして音楽を聴いてほしい」とYouTubeでのライブ配信を行ったところ、多くの人に見てもらうことができました。これを機に動画の配信を始めた音楽仲間も多くいます。今後もいつまた動けなくなるかわかりませんので、遠くの人にも届けられるオンラインを併用していきたいと思っています。  音楽は人の心をほぐす効果があります。コロナで大変な時だからこそ、私たちミュージシャンは音楽を届け続けたいと思っています。そのひとつとして、カホンのDIYを楽しんでもらえるとうれしいです。そしてそれが森に繋がるということを知ってほしいです。 ※   ※   ※  期せずして、コロナという苦境の中で人々に届けられたカホンのDIYキット。そこから地元の森について知って欲しいと考える音楽教室があることがその地域にとって希望といえるのではないか。心が疲弊することが多い昨今だが、その中でも未来を見つめる人たちがいることを忘れないでいたい。 【老舗の智慧】 <文・写真/鈴木麦(フリーライター、古代史・老舗研究)>
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