ジェンダー平等を目指したはずの男女共同参画会議から排除されたフェミニストたち

見せかけだけの「女性の声」を発信した女性政策担当大臣

大臣の一覧 上表は女性政策担当部局を所管してきた大臣の一覧である(灰色網掛け部分は官房長官と兼任)。  1992年に設置されて以降、武藤大臣を除いて、長らく女性政策担当部局の担当大臣は官房長官との兼任とされてきた。しかし、2005年の第3次小泉内閣(改造)以降は、官房長官との兼任ではなく、主に女性の大臣が配置される役職となった。「政策へのアクセス」という観点からも、これは一見望ましいように思われる。  しかし、各大臣の所属団体について調べてみると、官房長官との兼任が外されて以降、民主党政権の時期を除き、猪口邦子以外の歴代全ての担当大臣がバックラッシュ団体に所属していたことが分かった。つまり、女性の声という名目で、ジェンダー平等に対して消極的な女性閣僚の声が発信されてきたのである。  

まとめ

 ここまで、男女共同参画局/会議の成立がジェンダー平等につながらなかった理由について考察してきた。それは、行政改革による首相のリーダーシップ向上によって「政策に対する影響力」向上が失敗し、それをきっかけに「政策へのアクセス」が減少したからだ。  当初、男女共同参画局/会議はある程度のフェミニストのアクセスがあり、首相や与党とは異なる多元的な見解を示すことに成功していた。ところが、本来的に内閣府は首相のリーダーシップの基盤として作られたものであり、与党からの反論が噴出して「政府与党二元体制」が現れると、それを解消するため、首相は男女共同参画局/会議の影響力を抑制し、現状変更への選好が低い女性やその他男性にアクセスを限定させていった。以降、男女共同参画局/会議はその本来の機能を失っていく。2000年代半ばのバックラッシュの時期のようにコンフリクトが前面に出てきていた時は、まだ多元性が残存していたのであり、その後の沈黙は「政治主導」の名のもとに、それが失われたことを示しているといえるだろう。  最後に、現在の菅内閣での女性政策について触れておきたい。菅首相は、基本的には先の安倍政権の政策を継承すると述べている。  安倍前首相は「女性活躍」を掲げ、一見すると女性政策に積極的であるように見えた。しかし、「すべての女性が輝く社会」と唱えながらも、安倍前首相は「ジェンダー平等」には一切触れなかった。なぜならば、これはジェンダー平等政策ではなく、人口減少社会のなかで労働人口を維持するという成長戦略の一環でしかないからだ。それだけでなく、「少子化対策」という名のもとに、婚活支援などといった保守派が重んじる特定の家族の形を押し付けるような政策が行われた。  安倍前政権では、女性の主体的な声という多元性は締め出され、女性を客体化・道具化する政策が集権的にトップダウンで押し進められているのが実態だった。そして、それは「集権化」を志向する行政改革での制度変更が女性政策の分野で「有効に活用」されたということを示している。  そんな安倍政権を継承するという菅政権の女性政策はどうなっていくのだろうか。まず女性閣僚がたった2人に減少してしまったことから見られるように、安倍前首相と異なり、政治の中心課題の一つに据える気もないように見える。安倍政権で曲がりなりにも中心課題の1つになった女性政策が菅政権で再び「周縁化」される恐れがあるといえるだろう。2000年半ばから安倍政権にかけて「多元性」を失っていった男女共同参画局/会議は、さらに「集権性」も失うことになるのだろうか。  男女共同参画局/会議の成立がジェンダー平等につながらなかった理由として、「多元性」と「集権性」の相克を挙げた。しかし、本来は「多元性」「集権性」両方ともが真のジェンダー平等を達成するために必要なものである。「どのような条件でこの2つの要素が組み合わさった時に、ジェンダー平等が進むのか」という問いが残された課題といえるだろう。  こういったことに留意しながら、今後の菅政権の動きを注視していきたい。  次回の記事では、東京大学名誉教授の大沢真理氏にインタビューし、男女共同参画のこれまでを振り返った上で、現政権や未来のジェンダー政策について展望していく。 ◆「乗っ取られ」た男女共同参画 第3回 【参考文献】 Estevez abe, M., & Yeong Soon, K. (2014). “Preaidents, Prime Ministers and Politics of Care: Why Korea Expanded Child Care Much More than Japan. Social Policy & Administration. McBride, D. E., & Mazur, A. G. (2012). “The Politics of State Feminism: Innovation in Comparative Research”. Temple University Press. Sawer, M. (1990). “Sisters in suits; Women and public policy in Australia”. Allen & Unwin. Stetson, D. M., & Mazur, G. A. (1995). “Comparative State Femism”. SAGE Publications. TrueJacqui, MintromMichael. (2001). “Transnational Networks and Policy Diffusion: The Case of Gender Mains treaming”. International Studies Quarterly. 赤松良子. (2003). 『均等法をつくる』 . 勁草書房 飯尾潤. (2007). 『日本の統治構造 官僚内閣制から議員内閣制へ』 . 中公新書 石川真澄, 山口二郎 . (2010). 『戦後政治史 第三版』 . 岩波新書 岩本美砂子. (2007). 「日本における女性政策ナショナルマシナリーの分析: 「無私・無謬の官僚」神話と女性政策マシナリーの困難」 . 三重大学法経論叢 内山融. (2007). 『小泉政権「 パトスの首相」は何を変えたのか』 . 中公新書 大沢真理. (1993). 『企業中心社会を超えて―現代日本を「ジェンダー」で読む』 . 時事通信社 大沢真理, 上野千鶴子 . (2001). 「男女共同参画社会基本法のめざすもの―策定までのウラオモテ」 . 著 : 上野千鶴子 , 『ラディカルに語れば…』 . 平凡社 大嶽秀夫. (1999). 『日本政治の対立軸― 93 年以降の政界再編の中で』 . 中公新書 坂東真理子. (2004). 『男女共同参画社会へ』 . 勁草書房 三浦まり. (2016). 『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』 . 朝日新聞出版 新川敏光. (2005). 『日本型福祉レジームの発展と変容 シリーズ・現代の福祉国家 ) 』 . ミネルヴァ書房 千田航. (2008). 「男女共同参画社会の政策形成過程:基本法の成立とナショナル・マシーナリー」 . 北大法学研究科ジュニア・リサーチ・ジャーナル 辻由希. (2012). 『家族主義福祉レジームの再編とジェンダー政治 シリーズ・現代の福祉国 家 』 . ミネルヴァ書房 中井歩. (2010). 「少子化対策と内閣機能強化についての一考察ー制度変化と過程ー」 . 大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 西尾勝. (2006). 『行政学 〔新版〕』 . 有斐閣 縫田曄子. (2002). 『あのとき、この人 女性行政推進機構の軌跡』 . ドメス出版 萩上チキ. (2006). 「政権与党のバックラッシュ」. 著 : 上野千鶴子, 宮台真司,斎藤環, 小谷真理, 『バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』. . 双風舎 堀江孝司. (2005). 『現代政治と女性政策『現代政治と女性政策 ((双書ジェンダー分析双書ジェンダー分析))』』. 勁草書房 牧原出. (2005). 「日本の男女共同参画の制度と機構」 . 著著:辻村みよ子,稲葉馨,『日本の男女共同参画政策―国と地方公共団体の現状と課題』.東北大学出版会 独立行政法人 国立印刷局国立印刷局. (平成7~28年度 ). 『職員録』 <文/川瀬みちる>
1992年生まれのフリーライター。ADHD/片耳難聴/バイセクシュアル当事者として、社会のマイノリティをテーマに記事や小説を執筆中。 Twitter:@kawasemi910
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