朝日新聞にも目を向けておこう。朝日新聞で東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当したのちに新聞労連で委員長を、そして日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)で議長を務めた
南彰氏は、安倍晋三首相(当時)や菅義偉官房長官(当時)の記者会見が官邸側に支配されて形骸化していることや、菅官房長官の記者会見で東京新聞の望月衣塑子記者に対してあからさまな質問妨害が繰り返されていること、安倍首相と政治部記者らが会食を重ねて市民の批判を浴びていることなどを深刻に受け止め、2019年3月14日に官邸前で「知る権利」をテーマとした抗議行動をおこない、2019年5月に官邸記者アンケートをおこなってその内容を公表するなど、精力的な活動を展開してきた。
筆者は2020年3月5日にこの南氏と共に、「十分な時間を確保したオープンな首相記者会見」を求めるネット署名を開始し、同日に国会パブリックビューイングのライブ配信番組でお話を伺っている。
●「総理記者会見」の現状に向き合う 対談:南彰(新聞労連委員長)・上西充子(国会パブリックビューイング代表)(2020年3月5日ライブ配信)
同年3月18日には南氏と筆者が記者会見し、共同声明「
市民の疑問を解消する 首相への質問機会を取り戻そう」を、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)と国会パブリックビューイングの連名で発表した。
この南氏は、『
政治部不信―権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書、2020年)を2020年6月に出版したうえで、新聞労連委員長としての2年の任期を終えて、9月に朝日新聞政治部に戻り、国会担当キャップとして、国会審議取材を指揮する立場となった。
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立岩陽一郎「安倍総理辞任の衝撃の中、『官邸の天敵』南新聞労連委員長が朝日新聞政治部の現場に復帰」 Y!ニュース 2020年8月31日
その南氏と同じ政治部に、この4月に福島総局から異動してきた
小泉浩樹記者は、先日12月12日に下記のような記事を記している。
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「GoTo追加、密室の説明 医療支援求める野党、政府は応ぜず」朝日新聞2020年12月12日朝刊
筆者と同様に政治をめぐる言葉に注目されてきた友弘克幸弁護士(@ktyk_TOMOHIRO)がツイッター上で注目して紹介されていた記事で、友弘氏が指摘しているように、野党をめぐる記述の言葉遣いが的確だ。記事の冒頭はこうだ。
“
今は医療機関への支援が優先ではないか――。政府が観光支援策「Go To トラベル」に3119億円の追加支出を閣議決定した11日、衆参両院の予算委員会理事懇談会では
野党側が見直しを要求した。しかし、政府は国会審議が必要ない予備費で処理し、修正にも応じない考えだ。”
そして次のような文章が続く。
“
野党筆頭理事の立憲民主党の辻元清美氏が主張した。
「『Go To』の予備費には反対だ。医療支援にギアチェンジすべきだ」“
“
同党の奥野総一郎氏は……「国民に誤ったメッセージを発することになる。少なくとも年末年始に向けて停止すべきだ」と指摘した。”
“
立憲、共産、国民民主の3党の議員は、感染拡大で疲弊している医療機関や医療従事者への支援策を優先するよう見直しを求めた。”
「反発」などという感情的な言葉遣いは避けられている。野党の要求や指摘の中身も、丁寧に紹介されている。そう、こういう報道を望んでいるのだ。
ちなみに、同じ12月12日の毎日新聞朝刊をチェックすると、「Go To トラベル」の追加予算に3119億円を充てることなどが閣議決定されたという政府の動きを淡々と伝えた記事が掲載されているのみで、それに対する野党の見解は紹介されていなかった。
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「GoToに追加、3119億円 予備費支出、閣議決定 コロナ対策」毎日新聞2020年12月12日朝刊
この連載記事に注目してくださった方々は、政治をめぐる現在の報道のあり方に、筆者と同様に問題意識をもっておられるだろう。その問題意識を、「もう〇〇など、いらない」という形で表明するのではなく、
問題があれば指摘し、良い取り組みは評価し、買い支えつつ変わっていくことを期待していきたいと、筆者は考えている。
新聞社について言えば、組織メディアであるが故の身動きの取りにくさがあるものと思われる。しかし、報じる体制が整っている新聞社という報道機関が存在し続けることは、重要だ。記者を育てる組織としての新聞社の役割も、重要だ。志のあるフリーのジャーナリストや新興のネットメディアだけでは担いきれない役割を、大手の組織メディアは担い続けることが期待される。
市民の問題意識と個々の記者の問題意識、組織の上層部の問題意識がかみ合っていく中で、より適切に報道は、権力監視の役割を果たしていくことができるだろう。そのことへの期待を込めて、この連載を閉じたい。
◆短期集中連載「政治と報道」第11回
<文/上西充子>