「誤解を招いた」という「反省そぶり」を看過してはいけない

 政治と報道をめぐる短期集中連載第10回。今回は、菅義偉首相が5人以上で会食をおこなった件に関し、「国民の誤解を招いた」という菅首相の発言を取り上げる。記者には「誤解とは、どういう誤解か」とその場で尋ねてほしかったが、その後、改めて官房長官記者会見で問い直されることとなり、「国民の誤解」という表現が都合よく「反省そぶり」に利用されたことが明らかになった。

「誤解」発言の経緯

 まず、事実関係を簡単に整理しておこう。菅首相は12月14日の夜に、都内の高級ステーキ店にて自民党の二階俊博幹事長や著名人らと会食をおこない、店から出てくる様子がカメラに収められ、報じられた。参加者が8人ほどであったとみられることから、5人以上の会食を控えるよう政府が求めてきたことと矛盾する首相の行動が批判されることとなった。  しかし16日午前の衆議院内閣委員会では、大西健介議員の質疑に対し、西村康稔担当大臣が「一律に5人以上はダメだということを申し上げているわけではございません。何かそうした強制力があるわけでもありませんし」と、菅首相の行動を無理やり擁護するような発言を行った(衆議院インタネーット審議中継映像の1:24:22~)。  その状況の中で、16日午後の官房長官記者会見でこの会食の問題を問われた加藤勝信官房長官は、 「今回の総理の会食について、国民の皆さんの誤解を招いたというのではないか、という指摘については、これは真摯に受け止めていかなければならないと考えております」 と答えた(記者会見冒頭)。  しかし批判は収まらず、同日の官邸内での「ぶら下がり」の質問の場で、今度は菅首相みずからが、この件について言及することとなった。そのときの記者の問いと菅首相の答えはこうだ(映像の1:29より)。 ●記者   二階幹事長ら(と)の、大人数の会食は適切だったとお考えでしょうか。 ●菅首相 まず、他の方の距離は十分にありましたが、国民の誤解を招くという意味においては、真摯に反省をいたしております。  加藤官房長官も菅首相も、国民の「誤解」と口にしている。加藤官房長官は、「国民の皆さんの誤解を招いたというのではないか、という指摘については」と答えているが、質問を行った共同通信の記者は、「誤解」という言葉は口にしていない。「誤解」という話は、加藤官房長官が勝手に持ち出した話だ。菅首相についても同様だ。  これらの発言に対し、「国民は誤解などしていない」と批判が湧きおこった(第8回に書いたように、「反発」が起きたのではない。念のため)。  では、菅首相のこの「反省」を、報道各社はどう報じたか。

「真摯な反省」との見出しは不適切

 次の3つの記事を、見出しに注目しながら見比べてみてほしい。本文については、該当箇所のみを抜き出した。 ●国民の誤解招くという意味で真摯に反省=二階氏らとの会食で菅首相(ロイター、2020年12月16日 19時07分) “菅義偉首相は16日夜、GoToトラベルの全国一時停止を発表した夜に自民党の二階俊博幹事長らと5人以上で会食したことについて「他の方の距離は十分あったが、国民の誤解を招くという意味では真摯に反省している」と語った。” ●首相「真摯に反省」 5人以上の会食「距離は十分」説明(朝日新聞デジタル 2020年12月16日 19時28分) “菅義偉首相は16日夜、政府が新型コロナウイルスの感染防止策として会食は少人数で行うよう呼びかけるなか、14日に5人以上で会食したことについて「国民の誤解を招くという意味においては真摯(しんし)に反省している」と陳謝した。「他の方との距離は十分にあった」と説明した。” ●忘年会の自粛呼び掛けているのに…菅首相「国民に誤解招き反省」 その夜また、はしご会食(東京新聞、2020年12月16日 23時54分) “政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は会食は少人数にするよう呼び掛けており、首相は14日の会食について「国民の誤解を招くという意味において、真摯に反省している」と語った。  首相は「他の方との距離は十分にあった」とも釈明した。“  さて、皆さんはどう思われるだろう。東京新聞の記事は批判的な論調が見出しにも表れている。”菅首相は、この日の記者団との質疑の後も2件の会食に出かけた。公表された出席者数は、いずれも4人以下だった”と、「反省」の姿勢がなさそうなことも合わせて伝えている。  それに対し、朝日新聞の報道は随分と菅首相に寄り添っているように見える。「真摯に反省」という見出しであり、「国民の誤解を招くという意味では」という限定が抜け落ちている。ロイターの見出しと東京新聞の見出しには、国民の「誤解」という言葉が入っている。  筆者は、「首相『真摯に反省』」という朝日新聞の見出しは、不適切だと考える。これだと、5人以上の会食に参加したことを「真摯に反省」したかのように見える。しかし、菅首相は、会食への参加を「真摯に反省」したのではない。「国民の誤解を招くという意味においては、真摯に反省をいたしております」と述べたのだ。従って、ストレートニュースという意味では、朝日新聞よりもロイターの報じ方のほうが適切だ。  では、菅首相は何を反省したのだろう。文字通り解釈すれば、真摯な「反省」の対象は、「国民の誤解を招く」という意味での「反省」だ。「会食が不適切だった」という反省ではなく「国民の誤解を招くことになってしまった」という反省なのだ。  このような菅首相の「反省」の弁は、「不快な思いをさせたとすればお詫びしたい」というよくある謝罪の言葉と同様に、みずからの非を認めるかわりに批判する相手の側に問題があるかのような言い方だ。 「不快な思いを抱いたというあなたの一方的な言い分を、私は迷惑に感じているが、しかし、この場を収めるために頭を下げておこう」というのが「不快な思いをさせたとすれば……」という言い方だ。  それと同様に、「国民の誤解を招くという意味においては、真摯に反省をいたしております」というのは、「『誤解』する国民の側に問題があるのだが、しかしここは一応、反省のそぶりを見せておくのが得策だろう」と、「反省そぶり」を見せて場を収めようとしたものと言える。  では、国民はどのように「誤解」したというのだろうか。
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「国民の誤解」とは一体何なのか?
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『日本を壊した安倍政権』

2020年8月、突如幕を下ろした安倍政権。
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