ワクチンの知財保護で世界は分断されてしまうのか? 議論呼ぶ「ワクチン・ナショナリズム」

提案に対する国際的な支持が広がる

 南アとインドの提案に対し、多くの途上国・新興国が支持を表明している。12月10日時点で、ケニア、エスワティニ、モザンビーク、ボリビアが新たな共同提案国になった。また43カ国のアフリカグループ、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、エジプト、チュニジア、ベネズエラ、ニカラグア、キューバなどが全面支持、その他大枠として支持する国を合わせると約100カ国が賛意を表明している。WTO加盟国164カ国のうち3分の2が賛成していることになる。一方、提案に反対の立場は、米国、日本、EU、英国、豪州、スイス、カナダ、ノルウェー、ブラジルなどだ。  重要な点は、この提案はまさにかつてのHIV/エイズ治療薬の世界的な普及に向けた国際的な協働の延長と言えるほど、国際的に極めて重要なトピックになっていることだ。国際社会が新型コロナという危機にどのように向き合い、封じ込めに協力できるか? その優先順位を誰がどう決めるのか? 利潤の追求と公衆衛生のバランスをどうとるのか? などに関する問題提起と、南ア・インドの提案を支持する声は広がり続けている。  提案がなされた直後の10月17日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、「インドと南アフリカの提案を歓迎」との意見をツイッターで表明した他、国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)やユニットエイド(UNITAID、途上国におけるエイズ・マラリア・結核の治療普及を支援する国際機関)も提案支持を表した。国会議員が提案を支持する声明を出す例もある。国境なき医師団(MSF)をはじめとする国際医療・保健団体、貿易協定に関わるNGO、労働組合なども積極的に提案を支持し、各国政府(特に提案に反対している先進国)に働きかけてきた。中国、ロシアなどまだ態度を明確にしていない国に対しての要請も強めているところだ。

反対する国の主張

 10月の提案以来、TRIPS理事会は非公式な会合を2回持ち、WTO加盟国での合意を探ってきた。しかし先進国の反対意見は強く、議論は平行線。12月10日、ジュネーブで行われたTRIPS理事会でも結論は出ず、知的財産権の一時停止をめぐる攻防は2021年に持ち越されることとなった。  対立の論点はいくつもある。まず、グローバル製薬企業を有する米国やEU、また日本などの代表的な反対意見は、「現時点で、特許がCOIVD-19関連の医薬品等の壁になっているとの実態がない」というものだ。また、「知的財産権は、医薬品やワクチン開発などイノベーションと競争の原動力であり、それがすべてのワクチンや治療法の迅速な提供を保証する最善の方法である」という意見も根強い。  これに対し、提案国の南アフリカやインドは、すでにいくつかの国で特許が障害となって自国内の新型コロナに対応する製品の製造や流通が阻まれている事例をTRIPS理事会で提示した。
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私企業による独占管理は感染抑制を妨げるのか
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