コロナ禍で一気に200店舗閉店の衝撃――急速な閉店で「ファミレス難民問題」も

「インフラの1つ」となった地方のファミレス――撤退が「地域の生活問題」に

 さて、それでは単なる「ファミレスの閉店」がなぜ「地域の生活に関わる問題」として捉えられるのであろうか。  それは、同社が地盤である西日本各地を中心に「中山間地域・農山漁村地域」や「離島地域」にも多くの店舗を持つことが大きな要因だ。  先述したとおり、ジョイフルが創業したのは大分県。創業初期から大分県をはじめ宮崎県、熊本県など都市部以外での展開を中心としてきた同社ゆえに、小商圏型の店舗ノウハウは他の大手ファミレスより長けており、中山間地域はもちろんのこと、地場資本との提携をおこなうことにより他のファミレスチェーンが出店しないような離島・島嶼部への出店も積極的におこなってきた。そうした地域では、少子高齢化によりすでに周辺に飲食店が殆ど無くなっているような集落も多く、そのため、ジョイフルが近隣唯一の「洋食レストラン」、さらには唯一の「フリーWi-Fi設置店」「深夜営業店」であるという事例も少なくない。  実際に筆者も九州内で駐車場に農業用トラクターやデイサービスのマイクロバスが停まっているジョイフルを見かけたことがある。周辺にスーパーマーケットも無いような地域でありながら店内はそこそこ賑わっており、客席には農作業着のままデザートを楽しんだり、介護職員らとランチを楽しむ高齢者の姿が多くあった。こうした地域ではファミレスが貴重な雇用先になっているのは勿論のこと、地域で貴重な天候や時間に左右されない「農作業中の休息場所」や「高齢者の憩いの場」にもなっていることが伺えた。  仮にこの店舗が無くなれば、地域に「ファミレス難民」――ひいては「飲食店難民」が生まれることとなり、店内で憩っていた人たちの農作業の計画やデイサービスの経路も大きな変更を余儀なくされるであろう。
神話の里・宮崎県高千穂にあるジョイフル

神話の里・宮崎県高千穂にあるジョイフル(現在は8時~25時まで営業)。
山間部にあるジョイフルは「地域唯一のファミレス」であることが多い。
この店舗は幹線道路沿いではあるものの、周囲には山と田畑が広がる。

「非常時の合理化」の皺寄せ

 コロナ禍のように、大企業による「非常時における合理化」がおこなわれるとなれば、大抵最も大きなしわ寄せを受けるのは地方都市や小さな町だ。  ジョイフルは2020年末までにジョイフル屋号の店舗だけで約110店、系列の和食店「喜楽や」などを含めるとグループ全体で約170店ほどの閉鎖店舗を実施、もしくは予定している。やはりそのなかには中山間地域や農山漁村地域に立地する店舗が多くあり、なかでも福岡県みやこ町、佐賀県玄海町、熊本県芦北町、宮崎県綾町などはジョイフルの閉店によって自治体単位での「ファミレス空白地帯」となってしまった。  ジョイフルほどではないものの、ジョイフルと同じく地方に店舗が多いファミレス業界最大手「すかいらーくグループ」も2021年までに全体の1割弱にあたる約200店舗の削減を決めており、今後は全国各地でこうした「ファミレス空白地帯」、そして「ファミレス難民」が多く生まれ、地域社会に影響を及ぼすことになるかも知れない。  ファミレスの業態誕生から約半世紀。永年に亘って地域に根付いたファミレスは、もはや「家族の憩いの場」を超えた「地域社会のインフラ」の1つとなっている。  ファミレスの運営は決して慈善活動ではないことはいうまでもなく、今回のような非常時に「過疎地域の店舗が犠牲になる」ことは、小売業・流通業の世界では珍しくない。  しかし、小さな町にとっては、「コロナ禍によるファミレスの消滅」はいわゆる「買い物難民問題」と同様に、地域の生活環境を大きく変えた出来事のひとつとして歴史に刻まれることになるであろう。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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