「国民生活の守り」の「あら」を指摘するのが野党の役割
野党については「反発」という言葉が多用される一方で、野党の追及を受けた政府与党側には「
かわす」という言葉が多用される。「かわす」という言葉は、「誠実に対応せずに逃げる」というような卑劣さを表すよりは、何を言われても動じないという気持ちの余裕のようなものを感じさせる。クレーマーの理不尽なクレームを
言葉巧みに退けるようなイメージだ。
このように見てくると、国会報道の言葉遣いは、どっしりとした横綱に、血気盛んな小柄な力士が挑んでおり、それを政治部記者が実況中継しているように見えてくる。相手がどのような技を繰り出してきても、動じない横綱。その横綱になんとか土をつけてやろうと策を練る小柄な力士――しかし、国会をそのように見てよいのだろうか。
そんな言葉遣いで実況されると、「いくら野党がダメージを与えようと騒ごうが、政権はびくともしない。諦めなさい」と言われているような気になる。数の力を重視すれば、そのような見方になるのかもしれない。しかし、質疑の中身に注目すれば、そのような実況はできないはずなのだ。
ここで、違う見方を紹介したい。与野党の役割を野球における攻守に譬えた小川淳也議員の見方だ。同じように対戦ゲームに譬えているのだが、その対戦ゲームの目的は相手を打ちまかすことや自分のチームの得点を稼ぐことではない。
「今夜は小川淳也がじっくり語ります!これまでの政治、コロナ後の社会」という2020年5月26日のYouTube配信で、小川淳也議員はこう語った(映像の
33:37より)。
“
野球で言うと政権交代は、攻守交替に似ているんです。
政権与党はそれまで、守備に就いているんですね。エラーをしないように。ポテンヒットがこないように。守備に就いて国民生活を守るのが与党の仕事です。
一方、野党は、守備に就いた人たちのあらを捜さなければいけません。それはあら捜し自体が目的じゃないんです。あらのあるような守備配置では、最終的に国民生活が被害を受けるので、きちんとあらを見つけて叩いて、交替させて、守備位置を整えさせるプレッシャーをかけるのが野党の仕事なんです。だから、批判的立場から検証する。これが野党の最大の仕事なんです。
ですから野党は、守備に就くんじゃなくて、バッターボックスに入って、バットを振るんですね。できるだけ強い打球を打つんです。それによって、どこにあらがあるか、そのあらが国民生活に被害をもたらさないか、そういうチェック機能を果たすのが野党の仕事なんです。“
この譬えはよくわかるのだ。与党と野党は、共に国民生活を守ることに責任を負っている。与党は直接的な形で責任を負っており、野党はチェック機能を果たすという形で責任を負っている。あらを捜すのは、しっかりとした守備固めをさせ、国民生活に被害が及ぶことを防ぐためであって、相手を打倒するためではない。もちろん与党が守備の役割をしっかり果たせないなら、「交替させろ」と求めるわけだが、それも国民生活を守るためだ。
そういうとらえ方と、国会を単なる対戦ゲームのようにとらえる捉え方では、どちらが適切か。小川淳也議員の捉え方の方だろう。そうであれば、「反発」と表現されている行動の背後にある論点にこそ注目すべきだ。そこに守備の乱れ、あらがあるのだから。そのあらをなくすよう求めることは、与党にダメージを与えることが目的ではなく、社会をより正常に機能させることが目的なのだから。
なのに単なる対戦ゲームのように報じてしまうと、それが何のためのゲームなのかが見えなくなる。国会を、単に権力争いや支持率争いのための場のように見せてしまうことになる。そのような報じ方は、国会質疑の意義を損なうものだ。
立憲民主党で国対委員長を務めた辻元清美議員も、著書『
国対委員長』(集英社新書、2020年)の中でこう語っている(p.63-64)。
“
与党は法案提出前に党内審査を済ませてお墨付きを与えているのですから、国会審議で法案が本当に正しいものなのかをチェックするのは野党の役割なのです。言い換えれば、野党が厳しく追及しても耐えうる法案なのか、それをチェックするのが国会の質疑の場なのです。”
小川議員の野球の譬えと辻元議員のこの説明は重なり合う。法案審議であれ行政監視であれ、野党の役割はしっかりとしたチェックなのだ。
そう考えると、
時事通信の下記の記事のような言い回しがいかに不適切か、わかっていただけるだろう。
“
先の臨時国会で首相を攻めあぐねた野党はほくそ笑んでいる。立憲民主党幹部は「Go Toを含むコロナ対策と疑惑で政府・与党への不信が広がった」と断じ、共産党の小池晃書記局長は会見で「首相がコロナ対応で迷走する姿に国民が失望している」と語った。” (
【内閣支持急落に政府が危機感 GoTo批判、与党にも】時事通信2020年12月8日)
これではまるで、Go To キャンペーンの推進や政府のコロナ対策の不備によって感染が拡大し、医療現場や国民がさらに苦境に陥るのを、野党議員が「しめしめ」と喜んでいるかのようだ。
国会審議を「与野党攻防」という視点でとらえるから、「
ほくそ笑んでいる」などという表現になる。実際には
野党はGo To トラベルの継続が感染拡大につながっていないかと問い、医療崩壊を防ぐための対策を求め、事業の継続や雇用を守るための迅速な対応を求めている。
「菅政権が失政を重ねて国民がさらなる苦境に陥れば、自分たちに政権交代のチャンスがやって来るぞ」とほくそ笑んでいるわけではない。いいかげんにしてほしい。
◆【短期集中連載】政治と報道 第8回
<文/上西充子>