風評被害の検証をせずに「風評対策をやります」では納得できない
「汚染水の海洋放出で、福島の漁業の命運が尽きる」と警告を発する、福島原発事故生業訴訟の中島孝・原告団長
仙台高裁勝訴判決を勝ち取った水産加工品も扱うスーパー「中島商店」(相馬市)の経営者で、「福島原発事故生業訴訟」の中島孝・原告団長は、海洋放出についてこう話す。
「海洋放出をしたら、福島の水産物の命運が尽きることになると思います。地元の漁師は
『トリチウム汚染水なんかを流したら、今もさっぱり魚が売れないのに、さっぱり売れなくなる。福島の漁業なんかは終わりだ』とハッキリ言っています。
実際、築地の仲買人は
『スーパーは福島県産の表示をしないといけないので福島県産の水産物を取り扱わない。築地でも隅に置かれているだけで、表示をしなくていい飲食店がただ同然で買っていく』と聞きました。
政府は、相馬双葉地域から五輪の聖火ランナーがスタートすることで『原発事故は終わったのだ』と復興を印象づけようとしていますが、
原発事故から9年経ってもいまだに風評被害が続いています。こうした現実を隠蔽して被害を切り捨てたうえ、海洋放出でさらなる受忍を福島県民に迫っているのです」
枝野代表らとの意見交換後、 囲み取材に応じた立谷組合長
立谷組合長も、囲み取材で安倍政権と菅政権の対応をこう批判した。
「これまで大震災から9年8か月、風評被害の検証をしないで海洋放出ありきでやってきた。
ただ『風評対策をやります』だけでは納得できるものではない。しっかりとした説明がまだ不十分だということです。我々は海で魚をとって生活をしているわけだから『海に流すのが一番いい』と簡単に言われても納得できない」
「福島県民に寄り添う」と口先では言う一方で、原発再稼働に突き進むながら汚染水の海洋放出も進めようとする菅政権に対して、枝野氏は対決姿勢を鮮明にしていた。
菅政権は「脱炭素」にかこつけて原発を推進しようとしている
先の囲み取材で海洋放出関連の質問が一段落した後、所信表明演説で原発推進の考えを述べた菅首相のエネルギー政策について聞くと、枝野氏は次のように答えた。
「『2050年に二酸化炭素実質排出ゼロを目指す』という方向が示された時には若干の期待感を持ちましたが、これにかこつけて原発政策を悪い方向に転換しようとしている姿勢が明確になった。
脱炭素のために原発新増設も否定しないし、原発の新型小型炉開発を進める。汚染水の海洋放出もドサクサに紛れてやろうとしていると勘繰らざるを得ない。原発事故についての原因を含めた検証も十分ではない状況の中で、決して許されるものではない」
「一日も早い原発ゼロ社会の実現」を綱領に明記した立憲民主党のトップが、合流新党結成後の初めて福島を訪問し、漁業関係者と連携しつつ海洋放出を強行しようとする菅政権を批判したのだ。重点政策で野党第一党の存在感をアピールしたともいえる。汚染水処理問題や原発再稼働をめぐる与野党の攻防が注目される。
<文・写真/横田一>