農水省の太田豊彦食料産業局長(筆者のYouTubeより)
「日本の品種の海外流出を防ぎ、国内の農業を守る」という大義名分のもとで改正種苗法は2020年12月2日に参議院本会議で可決され、成立した。多くの大手メディアは、この法改正について「国内の新品種の海外無断持ち出しを防ぐ」「農産物の輸出を促進する」「新品種を開発する農家は歓迎の声」「日本ブランドを守る」などと肯定的に報じている。
●NHK「
改正種苗法が成立 新品種の海外無断持ち出し規制へ 参院本会議」
●日本経済新聞「
海外流出阻止へ改正種苗法成立 日本ブランド守る」
だが、前日の国会質疑にて、この
法改正の根拠を崩壊させる質疑があった事実はほとんど報じられていない。
法改正では農家の自家増殖(収穫物の一部を次の作付けの種苗として使用すること)を事実的に禁じており、その根拠として国内品種の海外流出に繋がっていることが挙げられていた。だが、
農水省は海外流出の客観的データすら持ち合わせていないことが当日の質疑で発覚。つまり、
自家増殖と海外流出の因果関係はおろか、海外流出の事実すらも農水省は明確に確認できていなかったのだ。
本記事では、この衝撃的な事実が発覚した12月1日 参議院 農林水産委員会における
立憲民主党・石垣のりこ議員と
太田豊彦 食料産業局長(農水省)の約3分間にわたった3問の質疑を一字一句漏らさずにノーカットで信号機で直感的に視覚化していく。具体的には、信号機のように3色(
青はOK、
黄は注意、
赤はダメ)で直感的に視覚化する。(※なお、色表示は配信先では表示されないため、発言段落の後に( )で表記している。色で確認する場合は本体サイトでご確認ください)
質問に対する太田局長の回答を集計した結果、下記の円グラフのようになった。
<
色別集計・結果>
●太田局長:
赤信号90%
灰色10%
*小数点以下を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはならない
赤信号が実に9割を占めており、質問に対する明確な回答はほとんど無かったことが読み取れる。いったいどのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。
また、実際の映像は筆者のYoutubeチャンネル「
赤黄青で国会ウォッチ」で視聴できる。
法改正の根拠である国内品種の海外流出について、農水省がどのように把握しているのかを石垣議員は3問にわたって確認していく。その質疑は以下の通り。
石垣のりこ議員:「ちなみに海外流出の事例、新聞等々でも時々見るんですけども、日本の品種が海外流出していると確認された事例というのは、どのくらいあるんですか?」
太田豊彦局長:「
えー、今、少し述べさせて頂きましたけれども、農水省の調査を最近行いました。えー、都道府県において、えー、流通、種苗の流通を厳重に管理していた品種でもですね、その、同じ名前の36品種が中国や韓国の通販サイトで確認をされておりますので、えー、なかなか、流出の、おー、こういった事態を、おー、看過するということは、あー、適切ではないという風に考えています。(
赤信号)」
石垣のりこ議員:「まあ、あのー、実際よく例に出されますシャインマスカットを筆頭にですね、海外流出した事例というのを新聞等々で個別に、いー、了承しているという風には、えー、思うんですが、農水省として、農水省の責任で調査をしている海外流出の基本的データは持ち合わせていないという風な、今、ご答弁であったと私自身は認識致しております。ホームページ等々では見ているけれども、ま、公式な数字として農水省では確認していないということでよろしいでしょうか?」
太田豊彦局長:「
今の調査はですね、農水省の、おー、調査でございます。農水省の調査でウェブサイト上で確認されたというものでございます。(
赤信号)」
石垣のりこ議員:「そのウェブサイト上で確認されたということは、それは公式な数字として農林水産省では日本の、えー、種苗が海外流出して・・、流出している事例として、えー、30何例でしたっけ、36例であるという風に公式に見解を表明できるということでよろしいんですか? 」
太田豊彦局長:「
えー、これはあくまでも同名の、おー、36品種がですね、ウェブサイト上に、いー、で確認されているということでございます。(
赤信号)」
太田局長は
3問とも質問に正面から回答することはなく、論点をすり替えており、赤信号とした。
1問目
【質問】海外流出の件数
↓ すり替え
【回答】海外流出の確認方法
2問目
【質問】海外流出のデータ有無
↓ すり替え
【回答】海外流出の確認方法
3問目
【質問】海外流出36件は農水省の公式見解か否か
↓ すり替え
【回答】海外流出36件の確認方法
この3回の答弁において、太田局長は農水省が海外流出を確認できた事例として紹介できたのは、
たったの一件である。しかも、「国内品種と同じ名前の36品種が中国や韓国の通販ウェブサイトに掲載されていることを確認した」という
非常に曖昧なものであった。定量的でも客観的でもなく、それが農水省の公式見解かと問われた3問目にまともに回答できない有様であった。
種苗法改正の根拠として「国内品種の海外流出を防ぐ」「日本ブランドを守る」と謳っていたにもかかわらず、農水省は海外流出の実態をほとんど確認できていないことが露呈した。この3問目の答弁の後、こうした矛盾を石垣議員は以下のように指摘した。
石垣のりこ議員:「はい。まあ、非常に緩い調査というのか、まあ、目視確認というのか分かりませんけども、まあ、今2つの質問させて頂きましたけれども、
農林水産省では自家増殖の事実とですね、種苗の海外流出の事実の因果関係、まあ、その因果関係どころか日本の種苗が海外流出して被害を被っている実態を客観的に把握できるデータを持ち合わせていないということが今の答弁から明らかになったのではないかと思います。これで、
農家が自家増殖をしているから日本の優良品種が海外に流出しているんですと主張する客観的明確な根拠は無いと言えるのではないでしょうか。」