非犯罪化が個人の権利と幸福に焦点を当てた政策だとするなら、
合法化は経済的利益配分のためのマクロな政策と言えるかもしれません。
非犯罪化されている状況下では、依然として大麻の売買は違法です。そのため、一般的な企業は大麻ビジネスに参入することができませんし、政府も課税することができません。
この状況を改善するべく、2013年に南米の小国、ウルグアイが世界で初めて、国家として嗜好大麻を合法化しました。この政策を導入したのは、“世界一貧しい大統領”の異名を取るホセ・ムヒカ氏です。この業績によってムヒカ氏は2014年のノーベル平和賞にノミネートされています。
大麻合法化というと、全ての規制を取っ払い野放しにするようなイメージを受けるかもしれませんが、実際には国主導で管理するという意味合いが強いようです。現在、煙草の流通が法律で管理され、課税されているように、大麻を扱うようになると考えると理解しやすいでしょう。
2020年11月時点で嗜好品としての大麻の合法化を行なっているのは、ウルグアイ、カナダ、アメリカの15州、ジョージア(グルジア)、ルクセンブルクになります。なお合法化が実施された地域では、過去の大麻所持での犯罪歴の削除が求められ、一部実施されています。
他の地域に先行して合法化を行った州や国では、目覚ましい経済効果が報告されています。全米でいち早く2014年から嗜好大麻を合法化したコロラド州では、合法大麻による税収が5年間で1000億円を突破しました。コロラド州の人口は兵庫県とほぼ同じであり、兵庫県における年間たばこ税の総額が52億円であることを考えると、かなりの金額であることが分かります。
この税収の増加分をコロラド州は教育インフラの整備につぎ込んでおり、古くなった校舎の改修や地元大学生の奨学金として充てられています。
2018年に国を挙げて合法化を行ったカナダでは、大麻企業も株式市場に上場が可能となりました。中でも、Paypalの創業者としても知られる大物投資家のピーター・ティール氏が出資した大麻医薬品企業、Tilray社の株価は劇的な高値を記録し、2018年の同社のCEOの給与は約280億円で、テスラ・モーターズのイーロン・マスク氏に次ぐ世界二位であったことが注目を集めました。
日本の一部識者が指摘するような、合法化に伴う治安の悪化や依存症患者の劇的な増加は現時点では確認されていないようですが、このような明るいニュースの裏では、大企業による独占や課税による価格の上昇も問題視されています。
特に大企業への不信感は非常に大きなものがあります。2020年10月に行われたニュージーランドの国民投票では、嗜好用大麻の“合法化”は2%の僅差で否決されましたが、反対派キャンペーンの主要な論拠の一つは、タバコのように大企業が扱うことによって、青少年をターゲットにした販売戦略が促進される恐れがあるという点でした。
大麻合法化に反対するニュージーランドのサイトより
今回、“合法化”は否決されましたが、仮に“非犯罪化“という第三の選択肢が提示されていたなら、間違いなく可決されていたと考えられます。
諸外国の政策転換を受けて、国連も重い腰をあげつつあります。12月2日には、国連麻薬委員会(CND)が大麻の扱いの変更に関する投票を行う見込みです。この結果次第では、大麻は1961年に定められた、“医薬品としての有用性が乏しく乱用性が極めて高い物質”としての分類から外れることになります。
日本でも大麻の単純所持での逮捕者数は年々増加し続け、年間4000人を超えました。毎年、それだけの数の若者が社会的な制約を課され続けていることを自覚すべきです。
<文/正高佑志>
熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。