「都構想」否決へ導いたSNSの動き ──<誰が「大阪市」を守ったか2>

イメージとパフォーマンスの維新政治

 吉村知事は都構想否決翌日の今月2日、囲み会見でこんな発言をしている。 「どこが出してるかよくわからないチラシやデマみたいな文書が出回った。責任元不明、その時だけ生まれてきた無責任な団体が湧いて出て、どれだけお金を使っているかわかりませんが、明らかに賛成派よりたくさんの量のビラが出ていた」 「市民の皆さんは、コロナと住民投票を分けて考えられていたと思う。もともと強烈に反対していた人たちがコロナ(対策への批判)と一生懸命、結びつけようとして活動していた」  コロナ対策に疑問を抱いたところから都構想反対へと至ったshinodaさんのような市民の存在をまったく見ようとせず、否決の理由や市民の運動を「デマ」の一言で済まそうとする、それこそ無責任な発言である。  そしてまた記者を集めては、万博会場への「空飛ぶ車」開発や「アジア市場を牽引する国際金融都市」を目指すといった、実現性も疑わしい派手な話ばかりをぶち上げている。「維新の首長は、住民の生活というものに根本的に関心がないのだろう」と評する人がいるが、私も同感だ。議論と調整を通じた地道な行政の積み重ねで、住民の命と生活を守るという地方自治の本分を履き違えているとしか思えない。  だから、都構想のような制度論に10年間も執着し続け、「NYや上海と並ぶ都市に」と浮ついた成長イメージを語り、メディア受けするパフォーマンスのようなコロナ対策に終始する。そして、事態が行き詰まれば、選挙や党派間の駆け引きといったパワーゲームで異論を抑え込もうとする

「市民より維新」が変わらない限り

 都構想反対の論客である自民党の川嶋広稔・大阪市議は、維新政治の問題点と、今後に望むことをこう語った。 「彼らは行政を効率化や経済合理性だけで語ろうとするけれども、地方自治体の本来の役割はそこじゃない。災害にどう備えるか、少子高齢化社会で地域のコミュニティをどう作るか、コロナの影響で今後増えるであろう貧困層の救済といった社会政策です。経済に関して言えば、成長戦略や金融政策なんていうのは国レベルの話であって、道府県でやれるのは企業誘致と、それから何よりも地元の中小企業の支援ですよ」 「維新が市民の選択を真摯に受け止め、民主主義の原点に戻って、議論や調整を地道にやれるかどうかでしょうね。私は自分のスタンスを『自民より市民』と、いつも言ってるんですが、彼らは常に『市民より維新』。その姿勢が変わらない限り、大阪の政治は今後も変わらないでしょう」  そのためには、大阪の自民党の責任も重い。当面は2023年4月に予定される知事・市長ダブル選挙に勝つことが目標になるが、選挙は住民投票とは違い、政党の戦いになるだろう。そこに向けて組織を立て直し、市民の信頼を取り戻せるか──。  11月21日に大阪維新の会の代表が松井から吉村に代わったことを受け、あらためてshinodaさんに連絡を取った。実は、彼は数日前、新型コロナウイルスにより母親を亡くしたばかりだ。大阪市存続に安堵したのも束の間、関東にいた母親が11月に入ってから感染が確認され、2週間も経たずに急逝したという。それだけに、急激なペースで感染拡大する大阪の状況は他人事ではなく、維新首長のパフォーマンス政治に強い危機感を持っている。彼からのメッセージこうあった。 「『市民に寄り添う』とはどういうことか考えていただき、ただの数字の裏に一人一人の生活があることに思いを馳せて真剣に向き合う、誠実な政治と行政をお願いしたいです」  この言葉を、維新の首長たちは受け止めることができるだろうか。 <取材・文・撮影/松本創>
まつもとはじむ●神戸新聞記者を経てフリー。関西を中心に、ルポやインタビュー、コラムを執筆している。著書に『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社)、『誰が「橋下徹」をつくったか 大阪都構想とメディアの迷走』(140b)など。Twitter IDは @MatsumotohaJimu
1
2
3