「都構想」否決へ導いたSNSの動き ──<誰が「大阪市」を守ったか2>

公文書で検証する「開示請求クラスタ」

shinoda soshuさんが開示請求した文書と制作したチラシ

shinoda soshuさんが開示請求した文書と制作したチラシ

 先の会合に出席していたshinoda soshuさん(@ssoshu)に別の日に会って、詳しく話を聞いた。通信系の会社に勤めるという彼は41歳。Twitter上で「開示請求クラスタ」と呼ばれるアカウントの一人である。  開示請求とは、行政機関の情報公開制度に基づき、公文書や行政情報の公開を求めることだ。たとえば大阪市のHPでは、〈行政運営の透明性を確保し、市民の市政参加を促進する〉〈市政に対する市民の理解と信頼を確保し、行政の説明責任を果たすため〉と、目的が説明されている。  これを活用してTwitter上にさまざまな情報を流している人たちにshinodaさんは触発され、「自分もやってみようかな、と軽い気持ちで」始めたという。きっかけは、大阪府・市の新型コロナ対策に疑念を持ったことだった。 「最初に変やなと思ったのは今年の3月、吉村洋文知事が大阪・兵庫間の往来自粛要請を発表した時です。何を言ってるんや、対策として明らかにおかしいと思い、コロナ対策を中心に知事や松井一郎市長の発言を追うようになったんです。初めて開示請求をしたのは6月、『大阪ワクチン』の件でした。吉村知事は『6月末から大阪市大で治験を始める』と言いましたが、そんなことできるのか、何を根拠に言ってるんだろう、と」  shinodaさんが「阪大医学部または阪大病院、或いは株式会社アンジェスから府知事が受け取った、新型ウイルスのワクチンに関する最新の報告書」を請求したのに対して出てきたのは、製薬会社が「DNAワクチン」をPRするプレゼン資料のようなものだった。こんなものだけを根拠に、知事は「治験開始」や「年内実用化」と言ったのか。それとも自分の請求の仕方が悪かったか……と、しばらく考え込んだという。  続いて、松井市長の呼びかけで30万着以上が集まった「雨合羽の行方」、吉村知事が医療従事者らに支給を決めた「20万円のクオカード」の経緯などを相次いで請求。文書開示に至らず、担当部署からの「情報提供」となったり、知りたい情報が的確に得られない場合もあったが、Twitterで公開すると反響があり、「こんな文書を、こういう文言で請求したらいい」と助言してくれる人も出てきた。  府のコロナ対策で言えば、開示請求クラスタの一人、沙和さん(@katakorinaoshi1)が8月、吉村知事の「うがい薬会見」に至る経緯を明らかにしたことが大きな話題を呼んだ。720ページに及ぶ資料には、知事・市長と医師の面談記録やメールのやり取りも含まれ、関係者が前のめりで、「ある意味、コロナに打ち勝てる」と発言したあの記者会見へと進んでいった経緯が記されていた。この大きな成果は、毎日新聞にも報じられた。記事の中で、沙和さんやshinodaさんが「開示請求の鬼」と呼ぶ東京の男性が語っている。「情報公開請求は、紙1枚で始められる民主主義だと思う」と。

維新首長は言いっ放し、メディアは検証せず

 コロナ対策への疑問から始まったshinodaさんの関心は、住民投票を控えた都構想へ、そして維新政治全般へと広がっていった。  7月には、大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)の駅などに貼られた「副首都・大阪をめざして」という府市の名前入りポスターの制作・掲示の経緯を質している。中立であるべき行政機関が維新の主張を宣伝することに違和感を覚えたからだが、これはサッカークラブのFC大阪が費用を負担し、府と同クラブとの「包括連携協定」に基づいて掲示された、という回答だった。だが、shinodaさんの開示請求もあり、批判が広まったせいか、ポスターは2週間ほどで消えた。  このほか、「知事・市長の言う二重行政とは何か」「市廃止の住民説明会に知事が同席することになった理由」「アメリカ村をジャックした都構想宣伝バナーをめぐる経緯」「頻繁にテレビに出ている知事への出演依頼書」「大阪府市と電通の契約一切」……など、次々と開示請求を重ねていった。 「首長や維新関係者の発言に関する文書がない『不存在』という回答を得ることにも意味があります。庁内や担当部署と話もしていないのに、思いつきや嘘を言っていることが明らかになるので。僕が請求した中では、『特別区になると消防車の到着が早くなる』と書いた特別顧問のツイートや、松井市長がテレビで『市の財政局が作成した』と言って示した財政シミュレーションの上振れグラフなどがそうでした」  こうして、さまざまな発言や政策の「裏取り」をしてきたshinodaさんは言う。 「維新の首長は、本当に言いっ放しや詭弁が多い。その場の思いつきや言い逃れなんでしょうけども、本来それを検証するべきメディアが、ほとんどやってくれない。だから、事実と異なる印象論や机上の空論、時には明らかなデマがSNSで飛び交い、賛成・反対両派が不毛な議論をすることになっている。そうではなく、事実に基づいて議論し、冷静に判断することが大事だと思うんです」  都構想の事実を伝え、住民投票に関心を持ってもらうため、デザイナーの直帰がベストさん(@Chokki_is_best)と協力し、わかりやすい文言とビジュアルでチラシを作る活動も行ってきた。これらの作品や開示請求の記録は、shinodaさんのアカウントからリンクされている。
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イメージとパフォーマンスの維新政治
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