バイデン氏は自身の勝利演説で
過去の大統領や政策に触れたが、同じようにハリス氏は
女性やマイノリティのアメリカ史についてフォーカスしている。
女性の参政権が拡大された
憲法修正第19条、
差別的な投票を禁じた投票権法など、自分たちが過去の延長線上にいると想起させることで、
今この時代もまた歴史が作られている瞬間なのだと、有権者全体に
あらためて政治への参加を促しているのだ。
「皆さんを言い表せないほど愛しています。彼らの素晴らしい旅に、私たち家族を迎え入れてくれたジョーとジルに感謝しています。そして、いつも私たちの心にいる、私の母、
シャマラ・ゴパラン・ハリス。今日の私がいるのは、彼女のおかげです。19歳でここ(アメリカ)に来たとき、彼女にはこの瞬間は想像できなかったかもしれません。
しかし、彼女はこのような瞬間が可能であると、深くアメリカを信じていました。だから、彼女について考えています。そして、
黒人女性、
アジア系、
白人、
ラティーナ、
ネイティブアメリカンの女性、我が国の歴史のなかで、今夜この瞬間のために道を切り開いてきた、何世代もの女性について。
平等と正義のために戦い、多くを犠牲にしてきた女性たち。我々の民主主義の屋台骨であると証明してきたのに、しばしば見落とされがちな
黒人女性もです。
1世紀以上に渡って選挙権を守り、保証してくれたすべての女性。100年以上前の憲法修正第19条。55年前の投票権法、そして2020年の今、我が国の新たな世代の女性が、投票するための基本的権利のために戦い続け、意思を示すために投票しました。
今夜、彼女たちの苦闘、決意、解き放たれるための強い洞察力を振り返ります。
私は彼女たちを手本とします」
こうして選挙戦や歴史を振り返りながら、最後には「今」、そして「未来」へ目を向けていく。日本メディアも多くが取り上げた「
最初の女性副大統領」という部分はあくまで表層的な面だが、
ハリス氏はすでにその先を見据えている。
「私はこの執務室で最初の女性(副大統領)かもしれませんが、
最後ではありません。なぜなら、今夜を見ているすべての
幼い女の子は、
ジェンダーに関係なく、この国が可能性に満ちていると目にしたからです。我が国はハッキリとメッセージを送りました。
野心的な夢を抱き、信念を持って導けば、他人には見えない自分が見えてきます。単に彼らはそれを目にしたことがないだけなんです」
詳しくは勝利演説の全文を見てほしいが、バイデン、ハリス、両氏のスピーチを見て感じたのは、前述のように
役割分担がしっかりしていること。バイデン氏は分断してしまった国民、そして党派間の溝を埋めるべく、「
戦い」や「
神」といった保守層が喜びそうなメッセージを前面に出していた。
いっぽう、ハリス氏は
女性やマイノリティに焦点を当てることで、民主党やバイデン支持者にある意味「
期待されていた」
役割を担っていたように思える。
はたして、ハリス氏とバイデン氏の「
柔と剛」、「
Good cop, bad cop」な二人三脚は、コロナショックや人種間の対立で傷ついたアメリカを再生できるのか。今後も目が離せない。
<取材・文・訳/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン