多様性、党派間の協力、アメリカの魂と神……。ジョー・バイデンは勝利演説で何を語ったのか

アメリカの新たな「戦い」とは

 今回のスピーチでは自らに投票した有権者ではなく、むしろ投票しなかった人々へのメッセージが多くちりばめられていた。そのひとつが、たびたび登場する「Battle=戦い」という表現だ。「共に立ち向かおう」というニュアンスを含ませることによって、「科学」や「希望」といったいわゆる「リベラル的」な言葉への抵抗感を薄めているように思えた。 「選挙戦が終わった今、何が国民の意志なのでしょうか? 我々の使命はなんでしょう?  私はこう信じています。アメリカ人は我々に品位の力、公正さの力を導くよう求めていると。我々の時代における大いなる戦いに、科学の力、希望の力を導くようにと。  ウイルスを制御するための戦いです。繁栄するための戦いです。家族の健康を守るための戦いです。人種的な公正さや、この国に根づいた構造的差別との戦いです。環境を守るための戦いです。品位を取り戻し、民主主義を守り、この国のすべての人に公平な機会を与えるための戦いです。  私は誇りを持った民主党員として出馬しました。そして、今アメリカ大統領になります。私に投票してくれた方と同じように、投票しなかった方のために激しく働きます。  この場、このときをもって、非道なアメリカの冷酷な時代を終わらせましょう。民主党と共和党がお互いに協力しようとしないのは、我々に制御できない不思議な力のせいではありません。これは判断です。我々が成す選択なのです。  協力しないと判断できるのなら、協力すると判断することもできます。これはアメリカ国民の導きの一部だと思っています。彼らは我々が協力するよう求めているのです。私はそう選択します。議会、民主党と共和党どちらにも、私と一緒にそう選択するよう呼びかけます。  アメリカの歴史はゆっくりと、しかし安定した機会の拡がりです。間違えないでください。あまりにも多くの夢が、あまりにも長い間、置き去りになっていました。我々は国家の約束を、すべての人に実現しなければいけません。人種、エスニシティ、信仰、アイデンティティや障害に関わらず」

「地球の指針になる」という宣言

 過去の大統領に触れることで、自分がモデルとしている大統領像も示している。また、孤立していくのではなく、世界に向けての模範になっていくというのも、「アメリカ的」だ。 「アメリカは転換点によって形作られてきました。我々が何者で、どうなりたいのかという厳しい決断をしたときです。連邦を救いにきた1860年のリンカーン。追い詰められた国にニュー・ディールを約束した1932年のフランクリン・ルーズベルト。ニュー・フロンティアを誓った1960年のジョン・ケネディ。そして、12年前にバラク・オバマが『Yes, we can』と語りかけ、歴史を作ったとき。  我々は転換点でともに立ち上がります。我々には絶望を打ち砕き、繁栄と目的を持った国を建てる機会があります。我々にはできます。私はできると知っています。私は長い間、アメリカの魂のための戦いについて話してきました。私たちはアメリカの魂を再生させなければいけません。  私たちの国は、良い天使と暗い衝動との絶え間ない戦いによって形作られてきました。私たちの良い天使が打ち勝つときです。  今夜、世界中がアメリカを見ています。私は、もっともいいときのアメリカは、地球の指針であると信じています。そして、私たちは力によって示すのではなく、示すことの力によって導くのです。  私はいつもアメリカを一言で定義できると信じてきました。可能性です。アメリカでは全員が夢、そして神がもたらした能力によって、行けるかぎりのところまで進む機会が与えられるべきだと。  これは素晴らしい国です。そして、我々は良い人間です。これはアメリカ合衆国なのです。これまで我々が共に行なったとき、達成できなかったことはありません」
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