「政府が『マスク調達能力あり』と判断した」とユースビオ代理人
樋山社長に取材を申し込んだところ、「代理人弁護士に聞いてほしい」とのことだった。そこでユースビオ代理人である佐川明生弁護士に質問した。以下は佐川弁護士とのやり取りである。
――日本政府と契約をかわす際、代表者の自宅が強制競売中である事実を説明しましたか。
「必要がないため、そのような説明はしていません」
――代表者の自宅が強制競売にかかっているにもかかわらず、日本政府と契約を結ぶことができたのはなぜだとお考えですか。
「代表者の個人資産が競売になっていることと、会社としてのマスク調達能力とが関係するものとは考えておりません。政府が会社に『マスク調達能力あり』と判断したために、契約に至ったと考えております。なお,実際に依頼を受けたマスクについては、すべてを完納しております」
――競売取り下げになったのは債権者への弁済を完了したためですか。仮にそうである場合、支払い名義人はユースビオ社、樋山氏個人名義のいずれですか。
「当方としても回答すべきと考えている政府との契約に関する事項とは関係ないものですので、お答えは差し控えさせていただきます」
社長の自宅が競売にかかっている会社を、どうして
「マスク調達能力あり」と政府に判断させたのか。ユースビオに信用をつけた人物がいるのだろうか。疑問は深まる。
厚生労働省が情報公開で開示した契約書は黒塗りだらけだった
アベノマスクに関連する契約書を情報公開請求したところ、単価や枚数が黒塗りで「開示」された。筆者は驚いた。というのも、じつはユースビオの契約内容は、すでに一部が国会議員に開示されていたからだ。
ユースビオが政府と交わしたのマスク調達の契約書
シマトレーディングが政府と交わしたのマスク調達の契約書
同社が2020年3月に交わした契約で、材料調達費として1枚55円とある。輸入業務は親族会社シマトレーディング社の契約で、1枚あたり80円。あわせて135円。なぜ、これを隠す必要があるのか。首をひねりたくなる。
ともあれ、1枚135円という金額をどうみるべきか思案していたところ、筆者のもとに関係者とみられる匿名人物から情報提供があった。
「ベトナムでの単価は30〜40円程度。日本への輸送賃を含めて1枚80円前後で契約した」
そういった内容だ。事実なら、135円のうち50円前後が利益になった可能性がある。
ユースビオとシマトレーディングについてみれば、34億円の半分弱、10億円以上だ。うまみのある商売のようにみえてくる。
マスクの闇はまだ深そうだ。今後も取材を続けていきたい。
<文・写真/三宅勝久>
みやけかつひさ● ジャーナリスト、ブログ「
スギナミジャーナル」主宰。1965年岡山県生まれ。フリーカメラマンとして中南米、アフリカの紛争地を取材。『山陽新聞』記者を経て現在フリージャーナリスト。著書に『
「大東建託」商法の研究』(同時代社)など