やっぱり不可解なアベノマスク緊急随意契約。社長宅が競売にかかっていた零細企業が30億円以上受注の謎

ユースビオ社長宅は債務不履行で競売にかけられていた

福島地裁

ユースビオ社長宅を競売開始直前に名義変更したことが、詐害行為として債権者から訴えられ、名義変更取り消しを命じる判決が出された福島地裁

 前置きが長くなったが、ここからが本稿の主題である。  ユースビオの周辺を引き続き調べていたところ、興味深い事実が発覚した。同社が国とマスクの契約を締結した今年3月〜4月当時、福島市にある樋山社長の自宅が、債務不履行を理由に金融機関2社によって競売にかけられていたのだ。  以下は、登記簿謄本や訴訟記録からわかる経緯だ。  樋山茂氏と妻が役員をする株式会社樋山ユースポット社という会社がある。所在地はユースビオと同じ福島市のプレハブ事務所だ。この樋山ユースポット社は2015年9月11日、日本政策金融公庫から4000万円の借り入れを行った。返済は毎月約50万円の80回、6年8か月で完済する条件だった。担保はなく、樋山氏が連帯保証人となった。  ところが1年後、ユースポット社は返済に行き詰まる。なぜ払えなくなったのか、記録を見る限り事情はわからない。事業が失敗したのかもしれない。  樋山氏は債権者と交渉したとみられ、2年間にわたって元本返済が猶予されている。だが、猶予措置が終わった2018年8月、ついに期限の利益の喪失を宣告される。期限の利益とは分割払いを認める特約である。これを失うとは、残債務の一括弁済を求められることを意味する。  借り入れから3年後の2018年10月18日、日本政策金融公庫は、樋山ユースポット社と樋山茂氏を相手どり、元本の残額約3600万円と損害金(年14.5%)の支払いを求める訴訟を郡山簡易裁判所に起こす。これに対して被告の樋山氏側は答弁書を出さず、口頭弁論期日にも出頭しないという態度で応じた。結果、債権者の主張どおりの判決が下され、確定する。  判決確定に続く2019年1月、日本政策金融公庫は、福島市内にある樋山茂氏名義の自宅(固定資産評価額は約500万円)に対して、強制競売の申し立てを福島地裁に行った。強制競売とは、債務者に差し押さえるべき財産が不動産以外にない場合に行う手続きである。申し立てを受けて、同地裁は同年2月11日、競売開始決定を出す。  ところが、この競売手続きが突如中止になる。競売開始決定の4日前にあたる2月7日、樋山氏は競売対象の自宅を妻に譲渡し、名義変更してしまったからだ。  困った日本政策金融公庫は同年3月6日、譲渡は「詐害行為」にあたり無効だとして、妻を被告とする訴訟を福島地裁に起こす。妻もまた裁判に出頭せず、敗訴が確定する。この訴訟手続きのなかで、妻は、書記官の問い合わせにこんな回答している。 「経済的余裕がなく、弁護士に依頼することができません。従って反論することを諦めます」(2019年5月10日付ファクス)  こうしたいきさつを経て、2019年12月、あらためて強制競売が開始される。並行して、自宅を担保に借り入れをしていた銀行の債務も不履行となり、保証会社からも競売を申し立てられている。

資金繰りの悪い零細企業が、なぜ国と契約できたのか

謄本によると、資金繰りに窮していた樋山社長だが、国とマスクの契約をとった後に負債を返済したとみられ、競売はすべて取り下げられた。自宅はユースビオが購入、本社を移転させた

 国とのマスク契約は、競売開始決定から3か月後のことだった。深刻な資金難に陥っていたはずの樋山氏は、マスク契約後は急速に立ち直っている。  債権者と話がついたとみられ、2020年4月24日付で、自宅はユースポットに任意売却された。4月27日付の登記で競売の記載はすべて抹消された。ユースビオの本社をプレハブ事務所から自宅に移転する。  マスクの支払いで負債を清算したものだろう。文字どおりの「V字回復」である。社長宅が競売にかかるほど資金繰りの悪い零細企業が、なぜ国と契約できたのか。ますます解せない。この点を厚労省マスク班に尋ねた。 ――社長の自宅が競売中だった。この事実を知っていたのか。 「承知していない。結果的にマスクが納入されたので問題はない」 ――今後調べる用意はあるのか。 「わからない」 「競売の件は知らなかった。知る必要もない」といった口ぶりだ。だが、知らなかったとは思えない。たとえば、政府が「ユースビオ」という社名を開示したのは4月27日だが、この日は樋山社長の自宅競売取り下げの登記がなされた当日だった。はたして偶然だろうか。
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政府は「マスク調達能力あり」と判断したのか?
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