今回は、「大学入試に求められる原則等」「大学入学者選抜を巡る諸課題の整理」「共通テストと個別選抜の役割分担、異なる選抜区分の意義と役割」について話し合われました。今、ここでテーマごとのコメントしませんが、全体として「今の形で大学入試を続けるのは苦しい」という考え方が委員の発言に透けて見えます。
まず大学入試センターについては、大学入試センター(役職員125名)の負担が現状は重いとのことで、それは、科目数が多いこと(6教科30科目)、受検者が多いことなどが原因としてあります。
さらに、令和2年の大学入試センターは全収入(125.6億円)の73%(95.9億円)が検定料でまかなわれているため、これから少子化の時代に入り検定料の増額が期待できないため運営が苦しく、これ以上負担は厳しいとのことです。
一方、他の委員からは、大学入試問題を作成する人が少ないか足りない状況が続いていることが指摘されました。それは、私立大学だけでなく、中小の国立大学でもそのようなことはあり、私立大学に至っては、定員の厳格化のために何度も入試を行わざるを得ない大学もあるため、過去問の再利用を検討しているか、すでに他大学の過去問を使用していることを公言している大学もあります。
「入試過去問題活用宣言」ホームページにあるように、もはや入試問題を作る気がないと思われる大学もあります。実際、私立大学の中には定員割れがひどく、何度も試験日を設定しなければならない大学もあり、しかも、定員厳格化(定員の1割より多くの合格者を出すと補助金を減額する処置)に苦しんでいる大学も多いので、形ばかりの入試をしなければならないことも過去問の再利用の要因です。このように、大学入試を行い続けることの困難さも考慮していかなければならないようです。
なお、共通テストについても今の形で問題を作り続けることは厳しいようですが、共通テストの場合、センター試験の過去問を再利用するとなると少し別のことも考慮しなければなりません。それは、共通テストで過去問を使うと公言してしまうと、例えば数学であれば、ただ単にセンター試験の過去問の解答を何年分も丸暗記するような勉強法を誘発する可能性があるからです。したがって、共通テストの過去問利用については十分に熟慮してから決定すべきです。
もちろん入試の実施の負担が危機的とまではいえない大学も多くあり、そのような大学では入試問題の作成に力を注ぎ、過去問の流用は考えていません。
この会議において、萩生田大臣は大変に忙しい中参加されていますが、いつも途中で形式的な挨拶をされて退席されています。今回も途中退席し、その前に開始63分あたりから発言されていますが、今回はいつもより長目の発言で踏み込んだものでした。その内容を紹介しておきます。
(萩生田大臣)
「川嶋先生におかれましてはご多忙の中ペーパーを作成していただきありがとうございます。1点だけ反論というか意見を言わせてください。
私が、記述式をやめようと思った最終的な判断は、受験生にとって自分の人生をかけた試験において、志望校の大学の先生にバツをつけられることには許容はあるのだけれど、民間企業の誰がつけたかわからない採点によって判断をされるのは納得がいかないのではないかと思いました。(このあたりから三島座長の顔が硬直する)
したがって、記述式が大事だというのであれば、多少採点に時間がかかったとしても個別試験でやってもらえないかなというのが当時の考えでした。
一方、現場の先生は多忙を極めていることや、設問を作り採点に携わることが大変だということも聞いていて、それはその通りなのだと思う。しかしながら、AP(入学者受け入れの方針)やDP(卒業認定・学位授与の方針)を各大学にお渡しして、それぞれの大学に合う学生さんを取ってくれという中で、私は入試はそれぞれの大学が大学の個性を目指す学生にわかりやすく示すいい機会ではないかと思っていまして、川嶋先生のような立場になるまでにそのようなことをやっていたのではないかと思っています。
しかし、若い准教授の先生、講師の先生、もっと言えば研究室に残っている若い人達がそれをしなくなると、大学が忙しいんだ、自前の問題を作問するのは難しいんだということになってしまうとそういう経験を積む人達が大学人の中でいなくなるのではないかと心配に思いました。来年まで、まだ一年ある。それまで、(大学入試)問題を作ることが先生方にとって本当にものすごく負担なのか、もしそうであるならば、外注が本当によいのかを次回のときにでも教えていただきたい」(ここまで大臣の発言)
私がいつも感じていることは、この会議には様々な有識者が招集されているというものの、一般の人から見るとほぼ同じ方向から光を当てているように見えるということです。これに対し、今回の大臣の発言はここにいる有識者にはない視点からのもので、このような発言ができる人を今からでもこの会議の中に入れてみると高校生、受験生に優しい制度ができるでしょう。