「CDデビュー」の殺し文句でカモられる老人たち。シニアを狙う[カラオケ搾取]

 著名な作詞家・作曲家らが夢の歌手デビューを後押しする――。CDの自主制作で数百万円を得る“スカウト商法”は数十年前から存在した。近年その手口は卑劣さを増し、無知な高齢者から老後資金を掠め取る輩が増えているという。その実態に迫った。
カラオケ搾取

写真/PIXTA

500万円支払いはザラ。巧妙な搾取の手口とは!?

 夢の歌手デビューができると誘い、作詞・作曲料やレッスン料などの名目でカネを巻き上げる「スカウト商法」。これまで若い女性や子供が狙われてきたが、そのターゲットは高齢者にまで広がっているという。 「演歌は廃れたといわれて久しく、紅白出場経験のある大物以外はなかなか稼げない現状。お金に困った、いわゆる“先生”と呼ばれる作詞家・作曲家のなかには、カラオケ喫茶やスナックで歌いに来た高齢者に、『CDデビューしないか?』と持ちかけて法外な請求をする人もいます。完全に搾取です」  そう語るのは、歌手の岡恵子氏だ。週刊SPA!でも’16年掲載の特集「PCデポより悪質な『老人商法』の呆れた中身」で、自主制作で200万円を支払ったケースを紹介したが、現在はその搾取の金額は積み増しされているという。 「先生たちは作詞料・作曲料などで一曲100万~200万円程度を持っていきます。彼らは“言い値”の商売です。そこにCD制作に必要なポスター制作、PV制作、レッスン代金を“上乗せ”して個人に請求している。500万円前後支払った、というケースもザラです」(岡氏)

「俺もスポットライトを浴びられる!」と契約…制作費は合計で約3000万円

 板橋区在住の中村茂さん(仮名・78歳)も被害者のひとり。その手口は実に巧妙だ。 「定年後の趣味で出場したカラオケ大会で、審査員のA氏にスカウトされたのが発端です。実際にA氏は過去に某紅白歌手のアルバムに1曲書いていて、ツーショット写真を見せながら『彼のようにメジャーになれますよ!』『すごい才能を感じます!』と口説いてきました。この人に任せたら俺もスポットライトを浴びられる!と契約してしまいました……」  2曲入りのシングルCDリリースにかかったお金は合計500万円。ここまで、A氏の言葉をみじんも疑わなかったという。 「CDプレスは大手レコード会社だったので、『あの大手からデビューできる!』と興奮したのを覚えています。後から知ったのはお金を払えば誰でも発売できる“自主制作レーベル”だったんです……。また、PV制作も『NHKから映像提供をされている』とA氏に言われたのですが、これもNHKが運営するクリエーター向けに提供している“フリー素材”のサイトから得たものでした……」  制作したCDは2000枚。まったく無名の中村さんのCDはどこも取り扱ってくれず、それでも先生の指示に従いカラオケ喫茶などに営業して“手売り”した。そこから1年後、アルバム制作の打診があったという。 「制作費は合計で約3000万円。高すぎるとは思ったのですが、『ヒットすれば印税やコンサートのギャランティで回収できる』と言われ、契約をしてしまいました。資金は老後資金として貯めていた退職金のほか、自宅も売却してどうにか捻出しました」 《中村茂さんがアルバム制作にかけた料金》 ▼作詞料(10曲) 1000万円 ▼作曲料(10曲) 1000万円 ▼レッスン料 半年300万円 ▼ポスター制作代 100万円 ▼CDプレス代金 2000枚100万円 ▼PV制作料 100万円 ▼HP制作料 100万円 ▼楽曲登録料 50万円 ▼雑費など 250万円 (※料金はすべて搾取側が“上乗せ”したもの) 合計 3000万円  しかし、当初の説明とは裏腹に、アルバムは遅々として制作されず。「作詞家の仕事が遅い」「もう少しレッスンを重ねてからレコーディングに入りましょう」などと理由をつけられ、逃げられ続けたという。 「A氏に詐欺では?と詰め寄ったら、『お前は破門だ!』と追い出されました。まさに“キレる老人”です。弁護士に相談したのですが、『契約をしている場合は難しい』と言われました。それでも訴えたいです……」
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YouTube番組登録料で1万円の怪
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