このままでは「第2の赤木俊夫さん事件」が起きる<特別対談:ジャーナリスト・相澤冬樹×元経産省官僚・古賀茂明>

「弱い」を前提に官僚組織を再構築する

古賀茂明×相澤冬樹 古賀:行政官としてそれなりの権限を持つ官僚は普通の民間人よりは強い存在――自らを律することのできる人でいてもらわないと困ります。とはいえ、前政権やいまの菅政権のように政権の言うことをハイハイと聞く官僚は出世、逆らうヤツは左遷というような人事を繰り返すと、官僚は抵抗できなくなってしまいます。だから、官僚は「弱い人」ということを前提にして、霞が関の仕組みを再構築しなくちゃいけない。 相澤:なるほど。 古賀:なぜ、官僚が公文書の改竄という犯罪に手を染めてまで上を守ろうとするのか、その理由をよくよく考えてみたんです。それは端的に言ってしまうと「辞められない」から。官僚は辞めてしまうと、損失が莫大になります。現役時の給与は悪くないし、民間企業のように早めの役職定年もない。キャリアならば、天下りして70歳までかなりの高給ももらえる。安泰な暮らしが保障されているんです。逆に、途中で辞めたら役所以外ではただの人になってしまい、とても官僚時代の給料は稼げない。つまり、肩書は有っても実力がないことを自覚しているんです。これでは「辞められない」。だから、まずはいつ辞めてもかまわない、理不尽な要求があれば、いつでも辞めてやるという役人を増やすしかない。 相澤:そんな方法がありますか? 古賀:採用試験で人員を確保するのでなく、民間から能力のある人をたくさん採用し、局長や課長などの幹部ポストに起用すればいいんです。こういう人はもともと民間で活躍していた人なので、役所を辞めてもまた引く手あまたで再就職できる。いつでも辞められるんだから、不正をしてまで忖度する必要はない。周りに不正を行おうとする役人がいれば公然と反対できるから組織全体がオープンで公正なものに変わっていく。政治家もそんな役人には公文書の改竄要求を匂わすこともできませんよ。

内閣人事局は「悪」と言えるのか?

相澤:政治主導の名のもと、内閣人事局が各省庁の審議官や局長など、600以上の幹部ポストを差配するようになってから、官邸に官僚が過度な忖度をするようになったという指摘があります。内閣人事局の仕組みは改善する必要はありませんか? 古賀:もちろん、忖度を強いるような過度な政治主導のあり方は改める必要があるでしょう。ただ、やっぱり適切な政治主導は必要で、内閣人事局が諸悪の根源という見方を私はしていません。例えば、安倍政権は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使できるようにするため、13年8月に法制局とは無縁の小松一郎フランス大使(故人)を法制局長官に抜擢する異例の人事をやってのけています。小松さんは熱心な集団的自衛権容認論者でしたからね。でも、この時に内閣人事局はまだ発足していない。公務員の人事権は大臣が握っています。つまり、内閣人事局なんてなくても、所管大臣がその気になれば、官僚のポストなどいくらでも差し替えできるんです。ただ、それまでの歴代政権はいくらかの良識があって、そんな乱暴なことはしなかった。だから、内閣人事局の制度の乱用を防止するなら、先ほど言ったように、民間からの登用を大幅に拡大して、おかしなことを言う政権に対抗できる官僚を増やしてバランスを取るのが有効です。そのために、例えば課長以上は「民間から公募で登用する」というルールを追加すればよいと思います。 相澤:どういうことですか? 古賀:実は内閣人事局の条文を最初にを作ったのは私なんです。麻生政権で公務員改革を手掛けている時のことです。当時私は、政治主導の強化を行うにはそれとセットで、官民交流の抜本的拡大が欠かせないと考えていて、それで課長級以上のポストはすべて公募するという条文を各省に提示しようとしました。ところが、各省庁と族議員による猛烈な反対運動が起きて法案自体が潰されかける事態に陥ったのです。そこで、「公募ポスト数を公表すること」とトーンを弱めて何とか法案に盛り込むことに成功しました。これなら公募のポスト数が周知されることで「残りのポストになぜ、民間人は起用できないのか?」と疑問の声が上がる。そうなれば、しめたものです。そもそも、民間人を起用できない理由なんてないわけですから、批判を避けようと各省庁が公募ポストを増やすだろうと期待しました。ただ、このルールが入った法案は民主党の反対で廃案となり、さらに、第二次安倍政権でこの法案が復活したのですが、内閣人事局はそのまま生き残ったのに、公募のルールは完全に削除されていたのです。結局、幻の条文になってしまったということです。 相澤:キャリア制度の見直しも必要ではありませんか? NHK勤務時代、警察回りを担当したことがあるんですが、経験のない若いキャリアがいきなり課長として赴任してくる。その一方で、どんなに優秀で人望がある警察官でもノンキャリ組の昇進は最高で県警の刑事部長どまり。キャリア組はガチガチの人事制度で守られているわけで、こうした仕組みがあるかぎり、官僚組織は既得権益にしがみつきたい「辞められない」人ばかりになってしまいますよ。 古賀:それはとても大事な論点です。ノンキャリでも優秀な人はたくさんいますよね。22歳の公務員採用試験の成績で、その後のキャリアが決まるなんてナンセンスです。大器晩成型の人もいるわけで、民間ならありえないシステムだと思います。
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