七里圭さん(左)と檜垣智也さん(右)
人の顔を写さず、声と気配だけで物語る劇映画『眠り姫』(07)や「音から作る映画」プロジェクト(14~)など、実験的な作風の映画を劇場公開し続けている異色の映画監督・七里圭さん。
そんな七里監督のデビュー作であり、幻想的な作風で禁断の愛に苦悩する姉弟を描いた山本直樹原作の『のんきな姉さん』(04)、台詞のない劇映画『ホッテントットエプロン-スケッチ』(07)など初期作品を中心とした特集上映が、下高井戸シネマにて30日まで行われます。
今回は、映画監督の七里圭さんと、電子音楽の演奏法であるアクースモニウムの普及活動を日本で続ける音楽家の檜垣智也さんに、今年3月パリ郊外の劇場Le CUBEで「音から作る映画」プロジェクトの一環として行われた公演『Salome’s daughter, acousmonium』の制作経緯や海外公演の観客の方々の反応、そして「音から作る映画」プロジェクトについてお話を聞きました。
――今回の海外公演『Salome‘s Daughter, acousmonium』の企画、開催趣旨についてお聞かせください。
七里:檜垣さんとは以前にもフランスで、電子音楽祭ではご一緒しているのですが、いずれパリで単独公演をやりたいですねという話をしていました。その話に、檜垣さんがフランスで所属する電子音楽の団体Motusが乗ってくれて、今回の企画が実現しました。フランス発祥のアクースモニウムを、日本で映画に応用したパフォーマンスを逆輸出しようというコンセプトでした。
――ところで、日本ではあまり耳にしないアクースモニウムとはどのようなものなのでしょうか。
檜垣:アクースモニウムとはフランス発祥の電子音楽の演奏装置のことで、スピーカーのオーケストラとも言われています。会場に様々な種類のスピーカーを配置して、リアルタイムに音響空間を作り出すという装置で、舞台にオーケストラの楽器奏者ようにスピーカーがずらりと並ぶので、その装置の操作のことを演奏と言っています。
アクースモニウム上映の様子
一般的な立体音響は「球の中に人がいる」ことを目指すのですが、アクースモニウムは奥行きを重視している装置で、スピーカーは層をなして置いてあるんですね。
アクースモニウムは28歳の頃、フランスに電子音楽を学びに行った時に出会いました。1974年に考案されたものですが、日本にいた時には知りませんでした。フランスでトレーニングを積んで今に至ります。
――映画と音楽の出会いを詩的に描いた『映画としての音楽』(14)から始まり、同じテキストの変奏として連作された『サロメの娘・アナザサイド(in progress)』(16)、『アナザサイド サロメの娘(remix)』(17)、『あなたはわたしじゃない』(18)という「音から作る映画」プロジェクトについてお聞きしたいのですが、なぜこのようなプロジェクトをやろうと考えたのでしょうか。
七里:「音から作る映画」とは、その名の通り、通常の映画製作のプロセスを逆転して、サウンドトラックから映画を作るという試みなのですが、その狙いは、映画を構成する様々な要素を一度ばらして、デジタル的に組み立て直すとどうなるかということでした。
映画は19世紀末に誕生した表現様式ですが、そこには、文学や演劇、音楽、美術といった先行する様々な表現ジャンルの要素が流れ込み、受け継がれて出来ている。それを、いったんバラバラにして、21世紀の技術とともに再構成したらどうなるかという探求、冒険だったんです。
そのとき参考にした一つが、電子音楽の手法で、いろいろ探っているうちにアクースモニウムというのは、面白いなと。この装置で映画を演奏することが出来るんじゃないかと思いつき、檜垣さんにコンタクトしたんです。
ちょうど、檜垣さんも同じことを考えていたようで、すぐに話はまとまり、まずは『眠り姫』(七里監督の代表作。本連載の
記事を参照)をアクースモニウムで演奏して上映することにしました。2013年6月に京都で催したのですが、その時は立ち見も出るほどの大盛況でした。電子音楽の研究者の川崎弘二さんにも、「世界初の試みだ」とお墨付きをもらいました。
●下高井戸シネマ 七里圭監督特集 のんきな〈七里〉圭さん
10月24日(土)から30日(金)まで
劇場HP
http://www.shimotakaidocinema.com/schedule/tokusyu/kei.html
公式HP
http://keishichiri.com/jp/events/nonkikei/
予告編
https://youtu.be/Xrx5K4zTVWM
●音から作る映画シリーズ一挙配信中
『映画としての音楽』『サロメの娘 アナザサイド(in progress)』『アナザサイド サロメの娘 remix』『あなたはわたしじゃない』
U-NEXT、Amazonプライム、iTunes、RakutenTV、GooglePlayにて
●最新作・映画版『清掃する女』追加上映
11月3日(祝)@三鷹SCOOL
http://scool.jp/event/20201103/