若者のほぼ2人に1人が失業者になるスペイン。その要因に見る日本との近似性

Employees lost their jobs

pkproject / PIXTA(ピクスタ)

若年失業率40%超の衝撃

 EU統計局(Eurostat)による8月の統計として、スペインのメディアが一斉に報じたのは、スペインの25歳までの若者の失業率がなんと43.9%になるということだった。この統計だと、若者の二人にほぼ一人が失業しているということになる。  スペインに次ぐ国はイタリアで、それにギリシャが続いている。昨年のこの比率は30.3%だったということで、ギリシャがそれを上回っていた。  ヨーロッパで最も優等生の国ドイツのそれは僅か5.8%、EUの同年齢までの平均失業率は17.6%とだという。(参照:『20minutos』)  なぜ、これほどまでにスペインで失業率が高いのか。その要因となるものを以下にまず列記して、その後詳しく説明することにする。 ① 年間を通して安定した職場がない。 ② 経営者が人を雇うのに短期の採用を好む傾向にある。長期間の雇用を避けようとする。 ③ 大卒でも特殊技能の分野で優秀な成績を収めた学生やアイディア豊富な学生は職場が見つかるが、単に大学を卒業したというだけでは職場はない。 ④ スペイン企業の95%は従業員が10人以下の企業だということ。  詳細を説明する前に、スペインの就労人口について触れたい。スペインで社会保障費を納めている労働者の現在の就労人口は1880万人。失業者は378万人。この二つの数字を足した労働人口は2260万人となる。スペイン人口4600万人。そこから割り出す全体の失業率は16.7%ということになる。(参照:『20minutos』)  1990年から現在まで失業率が10%以下になったのは唯一2005年から2007年までの3年間で、その時の失業率は平均8.5%であった。この時期のスペインは住宅建設ブームでヨーロッパの英国、ドイツ、フランスで建設される住宅を合わせた数の住宅がスペインで建設されていた。それが崩壊した2012年と2013年の失業率は25%まで上昇した。  これまでスペインで柱になっていた産業は建設業と観光業の二つだけである。バブル景気の時はGDPの24%が建設業と観光業で占めていた。そしてバブルが崩壊して、唯一スペインの産業で最大の貢献をしているのは観光業だけということになった。現在観光業がGDPに占める割合は12%である。

年間を通して安定した職場がないスペイン

 ということで、先述したリストに挙げた①について先ず言及することにする。  観光業というのは時期的なものに影響される。現在のスペインは世界ランキングで2位で、昨年は8300万人の外国からの訪問客があった。ランキング1位のフランスとの昨年の差は僅か500万人だった。  スペインの観光シーズンは3月頃から始まって10月頃に終了する。雇用が増えるのが正にこの観光シーズン中だけである。観光業の雇用人口は労働人口の12%。観光シーズンが終わるとそこで働いていた被雇用者の大半は失業者となる。それ以外の職場を観光シーズンオフに見つけることは容易ではない。  例えば、筆者が在住している町では周囲はオレンジ畑に囲まれており、観光業のシーズンオフにオレンジ狩りでアルバイト的に働くことはできる。しかし、これもほんの一部の労働者にしか割り当てはない。いずれにしても、観光シーズンが終了すると失業者が増えるのは例年のことである。  社会保障費を払わない地下経済と呼ばれている職場を探して働くことも可能性としてはある。しかし、このコロナパンデミックで地下経済も職場がなくなっている。  パンデミックの前までは失業手当をもらってその陰で地下経済で働いていたという人もいたが、地下経済の崩壊でそれも容易ではなくなっている。地下経済で十分に仕事があった時期はスペインの実際の失業率は公式のそれから2%くらい少ないと言われていた。地下経済で働くと社会保障費を納めていないので失業者として統計に出てこないからである。  スペインの雇用問題のひとつはスペインのGDPの柱になっている観光業では年間を通して安定した職場がないということである。
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非正規雇用ばかりで長期雇用を嫌う企業
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