——映画に限らず、日本社会では「共助」や「自己責任」が好まれますよね。
水谷:「
ちゃんと投資をせずに、回収もできていませんからね。
自主映画で製作資金を回収してるっていう作品は、ほぼないはずですから。その状態で
映画会社がぽっと出の作者を起用するっていうのは、商業として成り立っていないんですよ。根本的に商売じゃなくなっている。
映画って本当にお金がかかるんですよ(笑)。ということはお金を稼がなきゃダメで、私がポーランドに来て学んだのは『
いい映画=カネになる映画』なんですよね」
——身も蓋もない……。
水谷:「それはハリウッド映画のように興行的にたくさん回収するということじゃなくて、ちゃんと『
お金を回収できる価値のある作品』
がいい作品という意味です。日本ではよく『
ヨーロッパって芸術に理解があっていいよね』と言われますが、
そんなわけないですよ。
資金提供するには見る目がスゴく厳しいし、芸術としてお金が回収できる見込みのあるものには理解があるということなんです。アーティストもそうなんですよ。人によってはプレゼンの上手い下手があるので、だから美術だったらキュレーターの人がいて、映画だったらプロデューサーがいてという形があるんです」
——芸術をちゃんとビジネスとして成立させるための仕組みがあるんですね。
水谷:「私が通っていたウッチ映画大学で学んだことは、まず最初に『
なんのために映画を撮るか』ということです。一番言われたのは、『
自分のために撮る映画はない』ということです。
人の時間と大量のカネを使って、自己満足だけで作る映画は世の中に存在しないと。それ以外のなんでもいい。金持ちになりたい、ちやほやされたい、有名になりたい、じゃあどうするか。いいスタッフを集めて最高の映画を作る。
じゃあ、
最高の映画は何かというと、シンプルなのは観客に楽しんでもらえるもの。
一番大事なのは観ている観客の感情を揺らすこと。それはプラスでもマイナスでもいいのですが、
それがいわゆるコミュニケーションなんです。観ている観客の感情を動かせれば、映画のなかでコミュニケーションが取れていることになる。それなしでは映画は成立しないと教わりました。
そういうことって日本であまり聞かないよなあ……と」
——前々回に出てきた「精神論」のようでいて、ちゃんと実社会のビジネスや製作の仕組みと結びついているんですね。
水谷:「私も今はポーランドにいますが、日本の若くて頑張っている監督さんたちを知っています。そういういい監督さんたちもいるのに、チャンスというか
いい企画を持っていたとしても、『売れないから』という目線で見られてしまう。その売れないからっていうのも、
誰に対して売れないのかもわからずじまいのまま道が閉ざされている雰囲気があります。現実としてお金がない、下手したら制作費のために借金をしているような人たちが、どうやったら面白い映画が作れるか、そういう環境をどう作るかを考えることが映画業界に必要なのかもしれません」
——どうしたらマネタイズできるかや、どういうマーケットなら可能性があるのかも考えていないわけですもんね。
水谷:「若い監督を甘やかすということじゃなくて、
この先どう、いい・面白い日本映画を作っていくのかというなかで、助成金などは足りない要素なのかもしれませんね。現行の助成金というのは資本金が1000万とか2000万円ないとお金は戻ってこないんですよ。
お金を稼ぐ仕組みに対して、形式というかあまりに型になってしまったところがあるのかなと思います。それ自体は悪いことじゃないですけど、コミックスの映画化だったり、有名な若い男女俳優が主役をするとか」
——たしかに「お金になる作品の型」みたいなものに沿って作っている感じはありますよね。
水谷:「先日、日本に帰国したときに甥っ子が言った面白い言葉があって、『
日本映画っていうのは橋本環奈に頼りすぎだよね』って。たしかに橋本環奈さんはスゴい数の作品に出ていて、ただ、
それを小学生に言われちゃうんだって思って」
——鋭いツッコミですね……。
水谷:「橋本環奈さんがどうということではないのですが、
俳優ありきでキャスティングしちゃうのは邦画界の問題だと思います。あとブサイク役をブサイクができないとか。
明らかにおかしい設定のものがいっぱいあるじゃないですか。スゴい美人がちょっとボサボサの髪にしてブサイク設定にしちゃうとか。いやいや、違うでしょっていう」
——コントというか学芸会みたいな雰囲気になっちゃいますよね。
水谷:「これは見た目の好みもありますけど、フランス映画とかこの女優さんそんなに可愛くないな……と思う人が結構いるじゃないですか。だけど、
観ていると、どんどん美人に見えてくる。
それって女優の力だし、映画の力なんですよ。そういう力を日本の生きている女優さんで感じたことがあるかというと……
ないな〜と」
——ははは(笑)
水谷:「
日活ロマンポルノとか、そういう時代の女優さんにはいますけどね。
本来、役者ってそういうものだし、映画ってそういうものなはずなのに、本末転倒というか。監督にキャスティング権がないっていうのはツラいものがありますよ。ポーランドに100%あるかというとそうではないですけど、やっぱり合わないとなったら議論の余地はあるし、割と融通が利くので」
これまで3回にわたり、ヨーロッパの映画事情と邦画界について語ってくれた水谷江里監督。現在は
ポーランドと日本を行き来しながら長編デビュー作となるドキュメンタリー作品を製作中の彼女。並行して
長編フィクションの脚本にも取り組んでいるそうで、今後もその活躍から目が離せなさそうだ。いつかは「
日本で時代物を撮りたい」という水谷監督に今後も要注目である。
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<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン