ポーランドで引っ越ししたらこうなった。世界遺産から徒歩5分・築116年の物件を家賃光熱費込みで月約6万円

契約書はじっくり話し合って改訂

ベッドや棚を運ぶ手間がかからないのもありがたい

ベッドや棚を運ぶ手間がかからないのもありがたい

 ここまで見てもらえばわかるとおり、ただ引っ越して生活するためのハードルは、日本に比べてかなり低い。日本に比べると物価が安いこと、コロナショック下であることを踏まえても、家賃や光熱費などは合わせて約6万円とかなりリーズナブルだ。家具や家電が備わっているため、家を移すだけで膨大な資金が必要だったり、引っ越し業者を利用したり、謎の「礼金」を払う必要もない。  唯一、手間がかかったことといえば、契約書を結ぶときだろう。借主である筆者、筆者の仲介業者であるIさん、大家、大家が利用している不動産エージェントが集い契約書を読んだのだが、全文を声に出して読むのは当たり前。  以前、日本で引っ越しをしたときは「あとは常識の範囲内のことなので」と手短に済んだが、こちらは読んだうえで細かいニュアンスや句読点の位置まで、その場で話し合い書き換えていく。  仲介業者と不動産エージェントが、どちらのクライアントも損をしないように、できるだけ得になるように一歩も譲らないため、合計2時間ほどかかってしまった。  また、保証会社などがないため、家賃を滞納したときのために、追い出された場合の引っ越し先も書面で提出。引っ越し先の家主のサインを持って、行政書士のところへ行く必要があった。  こうして引っ越してから約1週間。リノベーション済みのため、室内の暖房はボタンひとつで時間や温度も設定できるが、木造の磨り減った階段は昇り降りするたびにギシギシと音を立てるなど、築116年のカミェニツァでの生活は一長一短。それでも、今のところは大きなトラブルもなく暮らせている。

業界主導の慣習は「文化」と呼べるのか

家具の配置を変えにくいのは、こだわる人にとってはデメリットかもしれない

家具の配置を変えにくいのは、こだわる人にとってはデメリットかもしれない

 とはいえ、総じてコストや手間は日本に比べると格段に少ない。言い方はよくないが、業者に任せるぶんの手間賃は言ってしまえば中抜きに他ならず、それらは借主が被らされることが少なくない。ポーランドでは前述の行政書士などの費用などは基本的に大家と折半で、借主が負担を強いられるようなことがあれば、すぐさま仲介業者が乗り出してくる。筆者の場合は初の海外生活ということもありIさんに頼んだが、交渉も自分で行えば、さらにコストは低くなる。  これは不動産に限った話ではないのだが、衣食住、どれも少し贅沢をしようと思ったら、ポーランドでも日本と同じような金額がかかることは珍しくない。しかし、ここ欧州では実感として、「最低限の暮らし」を送ることに対しての意識が社会全体で大きく違うのだと思う。  たしかに日本は世界でも「金持ち」な国だが、我々一般人の生活が富んでいて、日々の暮らしに不安がないかといえば、少なくとも筆者自身はそう思わない。文化の違いはもちろんあるものの、「礼金」や「保証会社」は在日外国人に話を聞くと「無駄金」だと言われることがほとんどだ。そもそも、業界が生み出してきた慣習は「文化」と言えるのかという疑問もある。  ましてや、住居を見つけるだけでも少なくない金額がかかるとなると、生活するだけでギリギリの人は、より安い家に引っ越すこともままならないだろう。  コロナショック下の欧州で引っ越しをして感じたのは不動産事情の違いだけでなく、社会全体の「衣食住」に関する捉え方の違いだった。 <取材・文・撮影/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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