San Diego, California. June 1st, 2020(adobe stock)
世界の二極化は激しく、ある意味内戦化していると言ってよい状況だ。
ジェンダーやレイシズムに対する態度、最富裕層2153人が貧困層46億人よりも多くの富を持っているという極限化した経済格差(オックスファム調べ)など、グローバル化が顕わにしたものは世界があまりにも大きく分裂しているということだった。
分裂の中で、改めて浮上したのは右派の先鋭化である。
1970年代以降、先進諸国の脅威として存在していたのは、その極北をIS(イスラム国)とするイスラム主義であった。だが、ISは、その「首都」としていたシリア・ラッカやイラクでの拠点・モスルを2018年に失ったことに象徴されるように、現在、イスラム主義はアフリカなどに例外はあるものの概して凋落傾向にあり、そのなかで極右の問題が改めて浮上している。
ドイツでは軍・警察を結ぶ極右のネットワークが話題となった。ドイツ連邦軍の特殊部隊「KSK」の隊員が自宅に武器、弾薬などを隠し持っていたり、また軍内には600人の極右支持者がいることも軍情報部の調査で判明、ドイツ憲法擁護庁長官のトーマス・ハルバンディング長官は極右の過激派とテロが今日のドイツの民主主義にとって最大の脅威、と表明している。
BLM(黒人の命が大事)運動が盛り上がりを続けるアメリカでは3月、黒人の救急救命士であったブリアンナ・テイラー氏が射殺されたことに対し、ケンタッキー州の大陪審が射殺した警官を罪に問わなかったことでの抗議デモで死者が発生している。
反レイシズム陣営が激しい抗議行動を行う一方で、重武装の右派民兵や、さらにはプラウドボーイズといったオルタナ右翼から、アロハシャツを着て自動小銃を構えるブーガルーと呼ばれる一群の潮流が登場している。ドナルド・トランプ米大統領を「世界を操る政財界、メディアのエリートたちと戦っている」として支持するQアノンなる、インターネット、SNSから生まれた潮流もある。
数年前ならば思いもよらなかったようなオルタナ右翼の多様な潮流の登場の中、政治指導者も「本音」をむき出しにする傾向が出てきたことも指摘できる。
ブラジルのボアソナロ大統領のエピソードが象徴的だ。先月25日、ボアソナロ大統領を支持するある人物がFacebookにエマニュエル・マクロン仏大統領の妻、ブリジット・マクロン氏とボアソナロ大統領の妻であり、ブリジット氏より28歳年下であるミシェル・ボアソナロ氏の写真と並べて投稿した。そこには「マクロンがどうしてボルソナロを責めるのか分かるだろう?」というコメントが添えられていた。
マクロン仏大統領とボアソナロ大統領は、アマゾンの森林火災をめぐって対立していたが、マクロン氏がボアソナロ氏を批判するのは、彼の若い妻を羨んでいるのだと揶揄するような内容だったのだ。ボアソナロ大統領はこの投稿に「いいね」をし、「やつに恥をかかせるなよ、ハハ」とコメントした。
当然、マクロン大統領は抗議し、「ブラジルの女性は大統領のコメントを読むことを恥ずかしく思うだろう」と返しているが、普通に考えれば、政治指導者が論敵の妻の外見について揶揄する、というのは“品位”にもとることだ。
しかしこうした品位にもとる行為をしているのはボアソナロ氏だけではない。トランプ大統領が対立候補のバイデン氏が美容整形を受けていることを示唆し、その上で、マスクをすればなんのために整形手術に大金を使ったのか、と揶揄している。
権威主義的な政治指導者が、むき出しの“本音”を隠さないことによって、右派の歓心を買う、という構図ができている。“本音”で語る、というのは、日本においても大体において保守的なオヤジの居酒屋政談である、という構図はあるのだが、ともあれ、ボアソナロ・トランプ両大統領の発言はジェンダーやレイシズムの問題が焦点化することに対する右派のいらだちが根底にあるといっていい。