「コミケ中止」で同人誌販売大手「とらのあな」が大量閉店に―実店舗復活の「希望の光」となる動きも?
世界最大の同人誌即売会となった「コミックマーケット」の初開催から45年。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりこの45年間で初めて「コミックマーケットが開催されない1年」となってしまった。
そうしたなか、日本各地と台湾で同人誌・同人CDを中心とした書籍やアニメグッズを販売する「コミックとらのあな」が実店舗網を大幅縮小。多くのアニメファン・同人ファンから悲鳴が上がっていたが、この9月には一筋の「希望の光」となる動きも見えてきた。
「コミックとらのあな」(以下、とらのあな)は1994年に秋葉原で創業。2000年には首都圏外初となる店舗を大阪に出店、2006年には秋葉原に本店として大型の自社ビルを建設するなど経営規模を拡大し、2010年代には、北は北海道から南は福岡まで全国各地に20店舗以上を構えることとなった。2018年には海外一号店となる台北店も出店している。
「同人誌」というと「アングラなもの」「マンガやアニメの二次創作だけ」という印象を持つ人もいるかも知れないが、同人業界の販売総額は年々拡大しており、マーケティング調査会社「矢野経済研究所」の試算によると今や約820億円にも上る(2019年度)。
とらのあなの店内は一般書店のように明るい雰囲気で、書棚には二次創作はもちろんのこと、グルメ、音楽、乗り物、旅行、パソコン、ロボットなど様々なテーマの同人誌や同人音楽・ゲーム・映像作品などが所狭しと並ぶ。中央通りに面した秋葉原の店舗には男女問わず様々な世代の客が訪れ、また地方店の存在はなかなかコミケに行けない人たちに対して「同人誌」を身近に感じさせてくれるものでもあり、同人業界全体の裾野を広げることにも貢献していたといえよう。
店舗網の拡大を続けていた「とらのあな」であったが、新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年春に予定されていたコミックマーケットが中止されたことで風向きが一変する。
多くの同人作家はコミックマーケットでの販売を目指して本やCDなどを製作している。2020年はコミケ以外にも多くの同人即売会が中止となっており、執筆していた本の発行を取りやめた同人作家も多かった。
同人誌や同人CDの販売が「ネット通販」や「電子版ダウンロード」に移行しつつあるなかでの「コミケ中止」は、実店舗の経営を直撃することになったと思われる。さらに、とらのあなは大都市の中心部に立地している店舗が多く、コロナ禍による「緊急事態宣言」以降は実店舗の客足が大きく減ってしまったことは想像に難くない。
とらのあなは今年に入り、コミケ中止前の2月末に立川店を閉店したのを皮切りに、コミケ中止後は6月末に三宮店(神戸市)・静岡店、7月末に新潟店・福岡店を、8月末には仙台店・横浜店・町田店・京都店を立て続けに閉店。店舗網は2019年の約半分となり、仙台市、新潟市、福岡市などでは近隣に店舗が存在しない状態となってしまった。また、存続することとなった店舗でも、多くが営業時間の短縮や定休日の設定をおこなっている。
今後、とらのあなではクリエイターから直接作品を配送するC to Cサービスの匿名配送を開始するなど、実店舗閉店を補完するための事業を進めていくとしている。しかし、「書店に立ち寄って知らない本を発見する」という実店舗ならではの体験ができる場は大きく減ってしまうこととなった。
全国チェーンに成長していた業界最大手「とらのあな」
拡大から一転「コミケ中止」で大量閉店に
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