マスクをした人波に見守られながらゆっくりと降りるシャッター。
国内で2020年8月中に閉店した百貨店は、東は福島市の「
中合本店」から西は北九州市の「
井筒屋黒崎店」まで、実に
8店舗にも上る。
その理由は経営難のみならず、中合のように「
再開発に起因するもの」や、井筒屋黒崎店のように「
入居していたビルの経営破綻」など様々だ。これによって
福島市、大津市、徳島市の3市は「百貨店が立地しない県庁所在地」となってしまった。
一方で、閉店に至らずとも、コロナ禍により「危機的状況」に陥っている百貨店は全国に数多くある。
シャッターを下ろす福島市唯一の百貨店・中合。
8月31日、再開発に合わせて19世紀からの歴史に幕を下ろした。
売り上げ減は「大都市中心」、テナント撤退は「地方中心」
8月のとある地方百貨店。この店舗は閉店する訳ではないものの、閑散とした館内の紳士服・婦人服売場では至るところに「閉店」「特別セール」の赤札が並ぶ。
近年、
「レナウン」「オンワード」「ワールド」など百貨店・総合スーパーを中心に展開する
老舗アパレルが不振に陥っていたのはいうまでもないが、新型コロナ禍はこうした各社の経営に打撃を与えた。かつてのアパレル業界世界最大手でありながらコロナにとどめを刺されたかたちで経営破綻した「レナウン」をはじめとして、いずれの企業も店舗整理を急加速させており、この夏は様々な百貨店や総合スーパーで「アパレルフロアの至るところでセールのポップ広告が踊る」状況が見られた。
経営破綻によって多くが閉店することとなったレナウンの店舗。
売場の至る所に「SALE」「70%OFF」の赤札が並ぶ。
コロナ禍の直接的影響をとくに大きく受けた店舗は、大都市の都心部にある大手百貨店であった。大都市の都心部やターミナル駅は「密」になりやすいためそうした立地の店舗が避けられたのはもちろんのこと、近年大都市都心部の百貨店内に訪日観光客向け免税店が増えていたことも追い打ちをかけた。
新宿高島屋にある韓国企業と提携した免税店。
9月時点では一部売場が閉鎖されるなど閑散としたようす。
例えば、大手百貨店「
大丸」では、4月から8月の5ヶ月間の売り上げが、大丸東京店で
約62パーセント減、大丸心斎橋店で
約66パーセント減、大丸梅田店で
50パーセント減となるなど、都心の旗艦店が軒並み厳しい状況となったのに対し、神戸市郊外にある地域密着型店舗の大丸須磨店は改装中のフロアがあるにも関わらず
約21パーセント減、高知市中心部にある同県唯一の百貨店・高知大丸では
約35パーセント減にとどまっている。
高知市中心部にある高知大丸。
新型コロナ禍での売り上げ低下は3割ほどに留まったにも関わらず、テナント撤退の影響がとくに大きかった百貨店の1つだ。
図:東京・大阪・四国の主要百貨店売上(2019年比)。
四国の百貨店の今年度売上は前年の6~7割を確保しているのに対し、大都市圏は厳しい。
その一方で、老舗アパレル各社による「
店舗整理」の対象となったのは、売上減少幅が大きい大都市の百貨店内…ではなく、もともとの売り上げ規模が小さかった
地方都市や郊外の百貨店、地方の総合スーパー内にある店舗が中心だった。
例えば先述した大丸では、心斎橋本店など旗艦店の撤退テナントは経営破綻したレナウンのブランドなどごく一部のみにとどまったのに対し、地方店の
高知大丸ではこの夏一気に30店以上のテナントが撤退。地場企業が運営する地方百貨店の状況はさらに深刻で、西日本のある地方百貨店ではテナントの撤退が相次いだこともあり売場を集約・一部フロアを完全閉鎖。また、東日本で複数の店舗をチェーン展開しているある地方百貨店では、ほぼ
全店舗に出店していたレナウン系・オンワード系ブランドの約8割が撤退し、多くの系列店のアパレル売場で「空き床が目立つ」状況に陥っているところさえもある。
もはや多くの老舗アパレルは「経営効率がいい大都市の店舗を死守するためには永年付き合いがある地方店であっても『切り捨て』さえ止むを得ない」ほどの状態なのであろう。