いかがでしょうか?
この筋肉を動かすと「ウソがばれますよ」あるいは「ウソと疑われますよ」という具体的な指示を受けていたにも関わらず、顔の下半分にある口角の動きの抑制に比べ、顔の上半分にある眉の動きの抑制は上手く行かなかった、ということです。
この研究は、抑制することが難しい表情筋について検証していますが、意図的に作ることが難しい表情筋について検証している様々な研究もあります。
この意図的に作ることが難しい筋肉のことを「信頼できる筋肉」といいます。研究の詳述は省略しますが、恐怖を抱くときに生じる「眉が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる」動き、悲しみを抱くときに生じる「眉の内側が引き上げられる」動き、幸福を抱くときに生じる「頬が引き上げられる」動きが顔の上半分にある「信頼できる筋肉」としてわかっており、顔の下半分よりもその種類が多いのです(表情の具体例を画像を通じて知りたい方は、「
マスクの上からどうすれば相手の表情を読めるのか? 微表情専門家が教える注目のポイントとは?」をご覧ください)。
マスクをしているからこそ、相手がわかる、自分もわかる
コロナ禍の昨今、実は、本心からのコミュニケーションをするチャンスかも知れません。なぜなら、
相手の表情をよく観察し、顔の上半分の動きが観られなければ、それは「感情を抱いていない」「感情が弱い」ということです。
感情がない・弱いということは、その相手は、会話相手の皆さんに、あるいは、そこでの会話内容に興味がない可能性が高いと言えます。同じことが、マスクを着けている自分自身にも言えます。マスクで顔が見えないから相手の話を適当に聞いていようと思えば、それが「顔の上半分に表情がない」ことを通じて伝わってしまうでしょう。
皆さんの周りの「顔の上半分がよく動く」方や会話相手の「顔の上半分がよく動く」話題を探してみましょう。その方は、皆さんを大切に想っています。その話題は、相手にとって興味深いのです。会話をしていて、自身の「顔の上半分がよく動く」相手や自分の「顔の上半分がよく動く」話題を探してみましょう。皆さんは、その方を大切に想っています。その話題は、皆さんにとって興味深いのです。科学的にはこのように考えることが出来ます。
マスクをしているからこそ、相手がわかる、自分もわかる、そんなふうに思います。
●参考文献:Hurley C. M., Frank M. G. (2011). Executing facial control during deceptive situations. J. Nonverbal Behav. 35, 119–131. 10.1007/s10919-010-0102-1
<文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。