誤認を誘う加藤勝信官房長官の答弁手法。その「傾向と対策」

4.9月18日記者会見における「きょうのご飯論法」

 9月17日に始まった加藤官房長官の記者会見は、「きょうのご飯論法」を日替わりで披露するかのような展開になっている。17日には桜を見る会の検証について北海道新聞の石井努記者に問われ、中止を菅首相が決めたのだから在り方の検討を今後行う必要はないとの認識を示した。  菅義偉氏は官房長官であった2019年11月20日に衆議院内閣委員会において、「こうした運用は大いに反省して」「全般的な見直しを行う」という姿勢を示し、「しっかり検討する時間が必要ということで、来年の開催は中止すべき、これは総理のご判断であります」と答弁していたのに、「しっかりとした反省と検討のために時間が必要だからいったん中止する」という説明から「来年以降も中止することに決めたのだから検討を行う必要はない」という説明へと、論理を逆転させたのである(下記の記事を合わせて参照)。 ●瀬谷健介:疑惑の「桜を見る会」の見直し→中断に「論理の逆転」との指摘も(BuzzFeed Japan、2020年9月19日)  さらにその翌日の9月18日午後の1回目の記者会見では、ジャパンライフの元会長の逮捕の報を受けて、東京新聞の村上一樹記者が 「山口会長が首相の推薦であるかどうかなど、この事についてですね、たとえば今、書類が保存されていない、名簿が保存されていないって話がありましたけれども、当時の職員から聞き取ることなどはできると思います。そういった再調査、真相究明を、改めて進めるお考えは、いかがでしょうか」と問うた(参照:首相官邸。8分1秒より)。  これに対し、加藤官房長官は、 「あの、それも、今、私も説明させて頂いたと思いますけれども、当時の、職員に聞いたり、あるいは文書、あるいは様々な、パソコン上の、データというのか、そういったものについても、幾度となく、ご質問を頂き、調査をしてる中で、こうした答えをさして、現在のところ、そうしたものは、残されていないということを申し上げてきているわけでありますから。この間、十分な、そうした調査は行っている、という風に、思っております。また、内容については、国会や、こうした場で、幾度となくご説明をさして頂いている、という風に思います」 と答えている。これも巧妙なご飯論法だ。  村上記者は、名簿が保存されてなくても、当時の職員から改めて話を聞くことによって、山口会長が安倍元首相の推薦であるかどうかの再調査はできるはずであり、そのような真相究明を行う考え方はあるか、と尋ねている。にもかかわらず、加藤官房長官は、当時の職員には既に聞いたし、データも調べたが、現在のところ、そうしたものは残されていない、と、名簿等の記録の有無について聞き取り調査を行ったという話にすり替えて答えている。  村上記者の「そういった再調査」とは、「(名簿の有無ではなく)山口会長が首相の推薦であるかどうか」を「(新たに)当時の職員から聞き取ること」を指しているのに、加藤官房長官が言う「そうした調査は行っている」というときの「そうした調査」とは、名簿などの記録の有無に関して既に実施済みの当時の職員への聞き取り調査へと、意味がずらされているのだ。  この場面のご飯論法は、@buu34 さんがツイッターで指摘したものだ。  このように、加藤官房長官の記者会見でご飯論法が披露された時には、それを一つ一つ記録して共有していく市民運動もできそうだ。筆者は、「#きょうのご飯論法」というハッシュタグを用意してみた。

5.誤認を誘う指示代名詞

 上記の例でも「そうした調査」という表現で話をすり替えていた加藤氏だが、このように指示代名詞を巧みに使って誤認を誘うのも、加藤氏が多用する手法だ。  文字ではなく耳だけで聞いているときに「この」「その」「こうした」「そうした」といった指示代名詞を聞くと、聞く側は文脈に即してその言葉を聞く。誠実なコミュニケーションが行われている中では、それは当たり前のことだ。けれども、加藤氏はそれを悪用する。    この記事で紹介してきた他の実例の中でもそれは確認できる。「1.」の項に示した17日午前の記者会見における「この会見というものを……そういった形で、機能できるものにしたいと思います」というのもそうだ。文脈的には、双方向のコミュニケーションを大事にすることによって、この記者会見を機能させたい、という意思表明のように聞こえる。けれども文字起こしして読むと、「そういった形」とは何を指すのか、実は判然としない。  はっきり語っていることは、「この場を使って、政府が、私どもが、何をどう考えているのかということをしっかりコミュニケートしていく」ということだけであるので、「そういった形」とは、実は「双方向のコミュニケーションを大事にする」ということではなく、「政府が何をどう考えているかをしっかりコミュニケート(=伝える)していく」ことでしかないようだ。  「2.」の項で示した石橋議員に対する2018年3月5日の国会答弁もそうだ。「そのタイミングで」と語ることにより、あたかも野村不動産の過労自殺が労災認定されたタイミングで、と聞き手に思わせるが、実は「そのタイミング」とはどのタイミングなのか、その指示語の前にある表現を受けた「その」ではない。  さらに「3.」の項で紹介した2018年1月31日の国会答弁でも、加藤氏は「その方」「そうした働き方」といった表現を巧みに用いている(参照:国会議事録・第196回国会 参議院 予算委員会 第2号 平成30年1月31日)。 「また、高度で専門的な職種、これはまだ制度ございませんけれども、私もいろいろお話を聞く中で、その方は、自分はプロフェッショナルとして自分のペースで仕事をしていきたいんだと、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういう御要望をいただきました。  例えば、研究職の中には、1日4時間から5時間の研究を10日間やるよりは、例えば2日間集中した方が非常に効率的にものが取り組める、こういった声を把握していたところでありまして、そうしたまさに働く方、そうした自分の状況に応じて、あるいは自分のやり方で働きたい、こういったことに対応する意味において、これ全員にこの働き方を強制するわけではなくて、そういう希望をする方にそうした働き方ができる、まさに多様な働き方が選択できる、こういうことで今、議論を進めているところであります」  これを聞くと、あたかも高度プロフェッショナル制度の導入を労働者がみずから望んでおり、その声を自分は直接聞き取ったかのような答弁をしていたわけだが、文字起こししてよくよく検討すれば、「その方」とは誰を指すのか、判然としない。指示代名詞とはその前に出てきたものを指すものであるにもかかわらず、「その方」にあたるものはなく、「その方」という言い方が突然、出てくるのだ。  聞いている方は、次に「例えば」として示された「研究職」の方が「その方」であるかのように文脈上、想定しながら聞くことになるが、そうすると加藤氏の詐術にはまってしまうわけだ。このときの「その方」という指示代名詞を使った詐術については、犬飼淳氏が下記の記事でグラフィックを使いながらわかりやすく解説しているので、ぜひご参照いただきたい。 ●犬飼淳:【こそあど論法】加藤厚労大臣 2018年1月31日参議院予算委員会(note:2018年6月15日)
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メディアが、そして市民が知っておくべき「騙されないための」対策
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